視線の先には
色とりどりのライトに照らされる、五人の女の子。
現実から切り取られたようなステージの上で、それぞれのメンバーカラーのスカートが舞い、髪が跳ね、とびきりの笑顔が振りまかれる。
DVDになっても変わらない輝きを存分にたたえた、誰もが羨むアイドル。
サビに入る直前、カメラが切り替わった。
ぱぁっと、推しが画面の向こうに笑いかける。
もう、推し以外なにも見えない。
私だけ
「文芸部の部誌、読んだよ」
放課後、鞄に教科書を詰め込んでいると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。
清楚なボブが可愛い、イラスト好きな女の子。
「ありがとう。…どうだった?」
部員の私は、その部誌に小説を載せてもらった。
思わず変に力を込めてそう聞くと、彼女は向日葵のように、にかりと笑う。
「面白かった!みんな、レベル高くてびっくりしちゃったよ。上手だね」
思った以上の高評価に、嬉しさがじんわりと染みる。率直に褒められたら、誰だって喜ぶよね!
「本当?よかった。ありがとう」
踊り出したいくらい心が舞い上がっているのを悟られないよう、そっと控えめな笑みを返す。
それを蹴り飛ばして、彼女は笑顔で続けた。
「あっ、そうだ。今回さぁ、空想ものがほとんどじゃなかった?」
「えっ?」
意図が分からない。小説も、俳句も、短歌も、全部実際にあったことじゃないから面白いのに。
「なんか、面白いんだけど、いまいち入り込めなかったんだよね。それより、今!ここ!自分!って感じのが読みたいな〜。なんて思ったり」
そこまで言って、じゃーね、と無責任に彼女は帰ってしまった。
急上昇していた気持ちが、一気に地面に落ちた。
入り込めなかったのなら、レベル高い小説なんかじゃないよ。
私だけの世界に読者を引き込ませる文章が、私が書きたい小説。それができなかったら、その読者にとって私の小説は面白いものじゃない。社交辞令の褒め言葉なんて、いらなかった。
そう思ってる人って、私だけかなぁ…。
遠い日の記憶
「ねぇ、初めて買った漫画って何だった?」
学校からの帰り道、そんな話をしながら歩いた。
「あれ、何だったっけ…」
漫画を買う、という行為自体が生活に染み付いていて、まったく思い出せなかった。初めて歩いたのはいつ?と聞かれたようなものだ。
でも…。初めて漫画を出した日は、覚えていていられるよ。
本屋に並んだ私の漫画を見ながら、夢を追いかけていた遠い日の私へ、そっと呟いた。
空を見上げて心に浮かんだこと
今日も空を見上げる。
届くはずもない「愛してる」を君へ捧げる。
あのね。私、なんとか生きてるからさ。
いつか、私を迎えに来てよ。
終わりにしよう
「ねぇ、もう終わりにしましょう?」
随分と久しぶりに会った君は、ひどく疲れたような、何かを諦めたような、そんな顔をしていた。
僕を絶望に突き落とす、言葉と表情だ。
「…終わりにって、どういうこと?」
自分の声がよく聞こえない。
『終わり』
簡単な言葉だけれど、今までそこにあったものが一瞬で手の届かない場所へ消える、不吉な言葉。少なくとも、僕にとっては。
「私ね、もうあなたとはいられないって思ったの。身勝手なのは分かってるけど、私達、ちゃんとお別れして、お互いに新しい生を謳歌しましょうよ」
『終わり』
僕にとっては日常の強奪者でしかない言葉だけど。君にとっては、新しい日常の扉なんだな。
「…わかった。幸せになってね」
まるで花嫁にかけるような言葉を君に残して、僕は君に背を向けた。
君のごめんね、と言う声が聞こえたけど、謝ることなんかないんだよ。
君にとって僕は、前世の辛い記憶の象徴でしかなかったんだから。