鶴づれ

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私だけ


「文芸部の部誌、読んだよ」
 放課後、鞄に教科書を詰め込んでいると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。
 清楚なボブが可愛い、イラスト好きな女の子。

「ありがとう。…どうだった?」
 部員の私は、その部誌に小説を載せてもらった。
 思わず変に力を込めてそう聞くと、彼女は向日葵のように、にかりと笑う。
「面白かった!みんな、レベル高くてびっくりしちゃったよ。上手だね」
 思った以上の高評価に、嬉しさがじんわりと染みる。率直に褒められたら、誰だって喜ぶよね!
「本当?よかった。ありがとう」
 踊り出したいくらい心が舞い上がっているのを悟られないよう、そっと控えめな笑みを返す。

 それを蹴り飛ばして、彼女は笑顔で続けた。
「あっ、そうだ。今回さぁ、空想ものがほとんどじゃなかった?」
「えっ?」
 意図が分からない。小説も、俳句も、短歌も、全部実際にあったことじゃないから面白いのに。
「なんか、面白いんだけど、いまいち入り込めなかったんだよね。それより、今!ここ!自分!って感じのが読みたいな〜。なんて思ったり」
 そこまで言って、じゃーね、と無責任に彼女は帰ってしまった。

 急上昇していた気持ちが、一気に地面に落ちた。
 入り込めなかったのなら、レベル高い小説なんかじゃないよ。
 私だけの世界に読者を引き込ませる文章が、私が書きたい小説。それができなかったら、その読者にとって私の小説は面白いものじゃない。社交辞令の褒め言葉なんて、いらなかった。
 そう思ってる人って、私だけかなぁ…。

7/18/2023, 12:38:42 PM