終わりにしよう
「ねぇ、もう終わりにしましょう?」
随分と久しぶりに会った君は、ひどく疲れたような、何かを諦めたような、そんな顔をしていた。
僕を絶望に突き落とす、言葉と表情だ。
「…終わりにって、どういうこと?」
自分の声がよく聞こえない。
『終わり』
簡単な言葉だけれど、今までそこにあったものが一瞬で手の届かない場所へ消える、不吉な言葉。少なくとも、僕にとっては。
「私ね、もうあなたとはいられないって思ったの。身勝手なのは分かってるけど、私達、ちゃんとお別れして、お互いに新しい生を謳歌しましょうよ」
『終わり』
僕にとっては日常の強奪者でしかない言葉だけど。君にとっては、新しい日常の扉なんだな。
「…わかった。幸せになってね」
まるで花嫁にかけるような言葉を君に残して、僕は君に背を向けた。
君のごめんね、と言う声が聞こえたけど、謝ることなんかないんだよ。
君にとって僕は、前世の辛い記憶の象徴でしかなかったんだから。
7/15/2023, 2:15:05 PM