終末時計

Open App
4/19/2023, 10:16:23 AM

もしも未来が見られるなら、 
ぼくは人間が絶滅する瞬間を見たい。

なぜなのか?
いつなのか?
どこで終わりのときをむかえるのか?

20年後なら、
ぼくはおなかいっぱい好きなものを食べて、
買っておいた本を読むだろう。

10年後なら、
ぼくはせいいっぱい親孝行をするだろう。

5年後なら、ぼくは成長するための努力を
すべて放棄するだろう。

1年後なら、ぼくは毎日、日記を書くだろう。
ぼくが生きていた証拠になるように。


いろんな人が、知りたい未来を見れたなら、
そのあときっと行動も変わるはず。
いろんな人のいろんな行動によって
未来もうっすら変わるはず。

そうしたら、ぼくが見た未来は、
ただのまぼろしへと変わるだろう。





「もしも未来を見れるなら」

4/18/2023, 6:45:27 PM

貴方は赤色だから〇〇だよね、とか
貴方は黄色だから△△じゃないよ、とか
カテゴライズされるのはごめんだ。

誰しもが一色の人間ではないのに、
必ずしも生まれてから死ぬまで、
ずっとその色とは限らないのに、
人はなぜか、他人を一色に決めたがる。

その方が安心するから?
同じ色の人と群れられるから?
違う色の人を拒絶できるから?

たまに思うのだ。

無色の世界で生まれたら、
みんな仲良くできるのだろうか?と。

この色よりこの色の方がキレイ、とか
この色は汚い色だ、とか
そんな争いから開放されるのだろうか。

私は無色になりたい。
そして、その日の気分でいろんな色にもなりたい。
無色の世界は、自由の世界と同義だと思う。


「無色の世界」






4/17/2023, 12:02:28 PM

桜みたいに、綺麗な姿の印象だけをみんなに残して、
散っていけたら、どんなに幸せなんだろうな。

消えたあとも、みんなの記憶に残るのは
枝に無数についていたころの鮮やかで美しかった花だけ。

桜散ったあと地に落ちて、車とか、自転車とか、
多くの人に踏みにじられた無数の花びらのことは
誰も覚えちゃいねえんだ。

しかし、人間ってもんはそうもいかねえんだよな。
蕾のときから散るまでも、その後も、
踏みにじられても生きてかなきゃなんねえ。
美しい期間より、美しくねえ期間の方が長い。
何なら、美しく咲けるかどうかもわかったもんじゃない。
ときどき、ものすごく無力を感じることがあるよ。


それでも、それでも
生きていかなきゃいけねえのが人間なら、
もういっそ、美しくない自分も愛するしかねえんだ。

散るためには、まず花を咲かせなきゃなんねえ。
てめえがてめえっていう花を愛さなきゃ、
てめえがてめえに水をやらなきゃ、
他に誰がてめえの蕾を守ってくれるんだ?
花開かせてくれるんだ?

咲くのも散るのもてめえの気分次第。
あの花は綺麗に咲いているのに
それに比べて自分は、と思うこともあるけどよ、
水やりを忘れずに、やれることをやっていこうぜ。


「桜散る」









4/17/2023, 9:54:20 AM

「ここではないどこかへ」

揺れる電車のなかで、
僕はふと隣にいる彼女のことを考えた。
横目で見ると、彼女は何かを探すように、
ただ窓から星空を眺めている。

短すぎるぐらい短く髪を切り揃えた彼女の横顔は、
初めて出会ったときよりも、
その凛とした美しさがいっそう際立っていた。


見て、先生。
これだけ髪が短ければ、私だと分からないでしょ?


肩まであった長い髪を、
男である僕よりも短く切ってきたのは、
僕を驚かせたかったからだという。

それは嘘だ。


彼女は、全て捨ててしまいたかったのだ。
『女』としての自分も、
これまでの過去も、
そして、あの母親も。


ガタンゴトン、ガタンゴトン。
僕たち以外は誰もいない車両では、
電車の揺れる音がまっすぐに脳に響いてくる。
下を向いた僕の自問自答と迷いも、
かき消そうとしているようだった。

これでいい、これで良かったんだ。
彼女にとっても、僕にとっても。

すうっと息を吸い、顔を上げて彼女に目をやると
さっきまで星空を見つめていたその美しい瞳は、
僕の姿だけをはっきりと映しだしていた。

「先生、だいじょうぶ?」


一瞬の沈黙は、電車の揺れる音だけではなく、
僕の心臓の高鳴りを大きく自覚させるのに役立った。

トクン、トクンと身体の奥から
わきあがってくるこの音は、僕の瞳の中に彼女が、
彼女の瞳の中に僕がいることの幸福の音だと思った。

「だいじょうぶだよ」

僕は、今の自分でできうる限りの笑顔で言った。
そして、少しおどけた声で。
なぜかわからないけど、そうした方がいいと思ったから。

「そう?」

ほほえんだ彼女のくちびるは、少し震えていた。
大人びていると思っていた表情は、
すっかり16歳の少女に戻っていた。

ああ、そうだ、彼女だって不安なんだ。
星空を眺めていたのも、これから僕たちがどこに行くのか、
自分の頭の中で探していたんだ。

僕たちが出会ったこの街を
僕たちは捨てていくんだ。

たとえ存在を拒絶された場所であっても
二人にとってはここが今まで世界のすべてだった。
不安にならないはずがない。

僕は視線を外さないまま、彼女の手を握った。
彼女も、握り返してくれた。
それだけで、また、幸福が溢れてくる。

なんとかなる、絶対なんとかなる。
ここではないどこかに、僕たちの居場所はきっとある。