「ねぇ、コスモス見に行かない?」
急にそう言われて少し言葉が詰まってしまった。彼はそんなこと言うようなキャラではないというのに、どういう風の吹き回しなのだろうか。まぁ彼に誘われたのなら、彼に惚れ込んでいる俺に断る理由は無い。コスモスの花畑に囲まれる彼はとても幻想的で綺麗なのだろう。そんなことを妄想しながら彼に了承の返事を伝えた。
『花畑』
《今日も飯食べてくるからいらない》
《わかった》
…またこの会話か。一緒に住み始めた頃はご飯も美味しいと食べてくれていたが、最近はご飯どころか朝顔も合わしてない。やっぱり男の俺なんかより女性の方がいいのだろう。付き合うことが出来たこと自体奇跡だったのだ。初めは楽しかった同棲も今となっては苦痛でしかない。もう出ていこう。そうした方がお互いのためだ。そうして俺は荷物をまとめてこの家から出た。
涙は出てこなかった。だが、俺の心を表すように雨粒がどんどん大きくなっていった。
『空が泣く』
《つぎいつ会える?》
そう送ってからはや数日。未だ既読という表示はつかない。え、どうしよう、そんな変な文だった?それとももう次はない?俺から誘うこと自体間違っていたのだろうか。ネガティブな思考がいつも以上に考えを巡らせていった。悲しいが、もう送信取り消ししてしまおうとトーク画面を開くと
《今からじゃダメ?》
そう返ってきた。…は?返ってきた?うぁ、嬉し…けどトーク画面を開いていたのですぐに既読がついているだろう。こんなんじゃラインが返ってくるまでずっと待っていたようではないか。いや、待ってはいたけども。そうこう考えているうちに先程までのネガティブな思考は消え去っていった。君からのLINEだけでここまで変化する俺は相当ちょろいのだ。
《もちろん、俺も会いたかった。》
『君からのLINE』
「俺から死ぬまで離れていかないで。」
いつもはそんなことは言わないのに。俺が消えてしまうとでも思ったのだろうか。だが、安心して欲しい。俺はこの命が燃え尽きるまで離れていくつもりは無い。だから、
「お前もな。」
そう一言だけ返しておいた。そんな俺を見てあいつは儚く笑った。
『命が燃え尽きるまで』
「ねぇ、ほんとにいいの?」
「うん、俺置いてかれるの嫌だし。」
「でもお前は、まだやりたいこといっぱいあるでしょ?俺なんかと違ってなんでもできるし、顔も綺麗だし、残ってても損はないと思うよ。」
「お前がいないとなんも出来ないよ。だから一緒にいってもいい?」
「…。わかった。一緒にいこう?」
夜明け前、俺らは消えていく星たちと共にこの世から姿を消した。砂浜に靴を置いて。
『夜明け前』