スリープ
眠くなった。
僕は眠くなった。
今日はとても長い一日だった。
眠くなった。
とても、疲れた。
早く寝よう。
だけど永遠に明日の朝は来ないだろう。
それでもいいんだ。
それでいいや。
千の夜の長い旅に出よう。
もう、寝よう。
本当に、長い一日だったな。
ユーサネイジア・デバイス
同意書にサインする
これは私の意思だから
全てを諦めた
全てを捨て去ったの
大丈夫、これで終わりなのだから
棺桶の扉がゆっくり閉まる
中から開けることはできない
私は気持ちを鎮める
何も怖がることはない
何も恐れることはない
外の世界の音が完全に消えた
聞こえてくるのは自分の鼓動
だけどパニックになる必要はない
私は眠りに落ちていく
深い眠りへと落ちていく
液体窒素の幻影
酸素濃度低下の脳内アラーム
遠退く意識と目まぐるしい七色の光
平穏な世界と聳え立つ雄大な楼閣
そして静寂
やって来る暗闇
あるのは暗闇だけ
心地よい暗黒の世界
私は
やっと自由になれた
だけど、ここは私の望んだ世界じゃない
「もう後戻りできない」
やっと苦しみから解放された
だけど、ここは私の夢見た場所じゃない
「もう元の世界に帰れない」
やっと自由を手に入れた
だけど、ここには何もない
「帰りたい、こんなはずじゃなかった」
「帰りたい、こんなはずじゃなかった」
「帰りたい、こんなはずじゃなかった」
帰りたい。ここから、帰りたい。
こんなことになるくらいなら、私は、もう少し。
ザ・ボトム・オブ・ジ・オーシャン
目を開けて ゆっくりとね
大丈夫 怖いものなんて何もないよ
ほら、見えてきたでしょ
この海の底は貴方の新しい世界
地上で力尽きた貴方はここに来たの
ここでなら思い切り泣いてもいいのよ
涙は光の泡となって昇っていくだけだから
安心してね 私は貴方の味方
大丈夫 悪いヤツはみんなやっつけたよ
ほら、誰もいないでしょ
この海の底は私と貴方だけの世界
私がここまで貴方を運んで来たの
ここでなら思い切り笑えるわ
どんな笑い声も霞んで消えていくだけだから
貴方と私だけ
ここは貴方が望んだ世界
もう後戻りは出来ないの
でも、残念に思うことはないわ
退屈はさせないから
さあ、王国を築き上げようよ 二人だけの
ギアー・マン
私は歯車の国の住人だ。名前はチャールズ。私の身体は無数の歯車で、友人のトムもそうだ。この国の国民みんなが歯車だ。いつ生まれたかなんて、知らない。気がつくと、こうしてみんなと複雑に絡み合って、仕事をしている。我々に与えられた仕事は常に回転していること。たまにオイルを注しては、働き続ける生涯だ。
滑稽に思うだろうが、私は自分が歯車であることを誇りに思っている。大海の魚のように、自由ではないが、苦痛ではない。誰かのために働くことは心地よささえ感じる。しかし、私は死ぬまでなぜ、なんのために自分が歯車なのか解るまい。
先日、トムが狂って死んだ。新品のジムがトムの代わりを担っている。私もいつかトムのようになるのだろうか? それでも、私の国は動き続ける。
イン・ザ・ホスピタル
白衣を纏った美しい女の子が
僕の居る部屋に来た
その子の笑顔はまるで宗教画の聖母のよう
その子の声は教会の讃美歌のよう
その子の瞳は煌めくダイヤモンドのよう
僕の姿を見ても表情ひとつだって変えやしない
悲鳴なんか絶対にあげないんだ
だから好きだ
僕の両親は僕を気味悪がったのに
この白衣の女の子は受け入れてくれる
勘違いかもしれない
だけど、僕は今すぐ抱きしめたいんだ
両腕があるなら
だけど、僕は今すぐその子と踊りたい
両足があるなら
神様
あの子は僕を救いに来てくれたんだろう?
神様
僕はかつて貴方を呪ったよね?
でもね、今は貴方に心の底から感謝しているんだ
このベッドを飛び出して
この不自由な肉体を飛び出して
この病院の中を飛び回り
この世界のあちこちを歩き
この天使のような女の子に愛を告げよう
風に扇がされた白衣が、天使の翼に見えた
聴こえるのは、心電図の音
レントゲン撮影の音
他の患者の無数の呻き声…