John Doe(短編小説)

Open App
11/16/2023, 5:57:12 AM

親愛なるフランシス兄さんへ


お久しぶり、兄さん。エニスです。このお手紙が届いている頃、こちらはつい先日家族のみんなであなたの無事とイエス様の生誕を祝ってクリスマス・パーティーを催しました。ニューヨークはもう一面銀世界のように真っ白なのよ。兄さんが戦っている欧州はどうかしら? 最近ラジオではどんどんドイツ軍が弱体化し、連合軍は東西でドイツを挟み撃ちにし始めたと聞きました。あの憎たらしいヒットラーの野望も御仕舞いでしょう。もしかしたらこの情報も古いかもしれませんね。

ご機嫌はいかがでしょうか、兄さん。あなたが無事に帰国できるよう家族みんなで日曜日は教会でお祈りしております。どうか御武運を。それと、このお手紙は父と母には内緒に書いています。兄さんは戦いでいっぱいいっぱいだから、このお手紙は本来は許されないものです。でも、私、本当に兄さんが心配で心配で、兄さんがもしかしたら苦しんでいるんじゃないかと思うと夜も眠れず泣いてばかりです。

どうか兄さん、死なないでください。一刻も早く戦争が終わることを祈ってます。そして何もかも忘れてあの懐かしいサンディエゴの海岸へドライブでもしましょう。それでは、さようなら。

エニス・J・ジェンタイルより

追伸

兄さんは以前お手紙で『僕の両手は血まみれで、もう二度と私の頭を撫でてやれない』とおっしゃいましたが、そんなことはありません。あなたは合衆国にとって、私たち家族にとって、勇ましく素晴らしい人です。どうかご自身を責めないでくださいね。愛しています。

11/12/2023, 11:31:19 AM

無邪気な子供たち


心を病んだ人を理解できない奴らがいる。
理解しようとすらしない奴らもいる。
特に大人がそうだ。
だから、僕は子供が好きだ。
それも小さな子供。
まだまだ未成熟な子供。
だって彼らは僕を友達のように接してくれるから。
彼らの前では僕は心の底から笑顔になれるんだ。
大人たちの前では顔で笑って、背中で泣いてる。
そんなことしなくていいから、気が楽だ。
僕が病人だなんて、夢にも思わないだろう。
そして『変わった面白い人』だなんて言う。
本当に無邪気で元気な子供たち。
大人の女なんていらない。
僕はただ、僕を『面白い人』と認識してくれる子供たちとじゃれあっていたい。

11/11/2023, 11:59:14 PM

フォールダウン、バット・ゲット・バクァップ


ズルして生きてたってしょうがない
例えトランクの中に大金が入ってたって
誰も振り向きもしない、そんな人生に
何の意味もないことくらい知ってるだろ?
空っぽの心を埋めてくれるのはお前なんだ
お前がいなければ、とっくに俺は引き金を引いてる
気にしないでくれ、俺は大丈夫だから
俺はもうすぐくたばるだろう
だけどじきに起き上がる
俺は地に這いつくばるだろう
でもゆっくりと立ち上がる

怖いもの見たさで世界の中身を見たんだ
たちまち後悔したよ、そこは便所より汚い所だ
でもお前はそんな場所でも綺麗に輝いている
いつまでもその光で照らしてくれるなら
俺は愚かにも笑って生きていけるだろう
お前は俺にとっての自由の女神なのだから
気にしないでくれ、俺は大丈夫だから
俺はもうすぐくたばるだろう
だけどじきに起き上がる
俺は地に這いつくばるだろう
でもゆっくりと立ち上がる

そうだ
これが俺の生き方なんだ

気にしないでくれ、俺は大丈夫だから
俺はもうすぐくたばるだろう
だけどじきに起き上がる
俺は地に這いつくばるだろう
でもゆっくりと立ち上がる
世界は転げ落ちていくだろう
だけど心配しないでいい
また元通りになるのだから

大丈夫さ
きっと大丈夫さ

11/10/2023, 10:33:03 AM

エチゾラム0.5mgの人生


僕が生きていける理由は、この小さな、白い錠剤だけなんだ。
これがあるから、安心して生きていけるんだ。
こんなに小さいのに、何よりも心強い味方は君だけなんだ。
死ぬほど怖い思いをした。
死にたくなるほど辛い思いをした。
だけど、いつでも君が僕を救ってくれる。

救うのは神様じゃない。
白い小さな、僕の味方。

11/8/2023, 10:51:36 AM

グッバイ・エブリワン


「私は今、広大な宇宙とひとつになっている。そして世界と星ぼしは私を優しく包み、そして私はおかえしに彼らを愛している。人類は皆友達。敵なんてどこにもいない。本当の敵は自分自身の醜い心なんだということ、知ってる?」

机に座ったまま、彼女は囁き声で僕に向かってそう言った。
僕は彼女が受験のストレスでとうとうおかしくなってしまったと思った。彼女は目に涙を浮かべ、安らかに微笑んでいる。

「あ、ああ。そうなんだ……」

うふふ、と彼女は笑ってみせた。だけど今は授業中だから、あんまり関わりたくなかった。ほれみろ、先生が睨んでいるじゃないか。

「先生、『夜這い』ってなんですかぁ?」

馬鹿な生徒の一人が僕らに気遣ったのか、それとも本当に馬鹿なのか、そんな質問をした。

「そうですね。いわゆる、『男女の営み』ってヤツです」

先生はまるでロボットみたいに棒読みで即答した。

「だからその、『男女の営み』ってのを詳しく…」

馬鹿がそう言いかけたところで、先生は大声でこう怒鳴ったんだ。

「なら端的に言うぞ、セックスです!」

クラス中で爆笑の嵐が巻き起こった。分かってた。皆受験で頭がおかしくなってたんだ。彼女は頬を赤らめて、「先生ったら…なんてこと」とかほざいてやがんだ。おいおい、さっきまで宇宙と一体になっていたヤツのセリフかよ? と僕は彼女に呆れる。

「静かに! 静かにしなさい!」

「せんせー、それはセクハラですよー!」

「『夜這い』ってエロくない?」

「俺、今晩お前に夜這いしに行ってもいいかい?」

「静かにしなさいったら!」

「いやーん」

こうなってしまえばもうカオスだ。もうしばらくすると学年主任が飛んできて怒鳴り込みに来るだろう。僕はひたすらシャーペンの先で腕をザクザクと刺しているだけでいたって普通だ。

こいつらに比べれば。

Next