John Doe(短編小説)

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8/16/2023, 2:58:28 PM

アクエリアス


水瓶座の新時代を希求するとき。
あなたは、解き放たれる。
あらゆる苦悩から解放される。
足枷は外れ、新しい世界を自由に歩ける。
もう、誰もあなたを縛らない。
もう、何もあなたを苦しめない。
あなたは水瓶座の時代に生まれ変わる。
聖なる水流によって浄化された世界に。
水瓶座が、あなたを安らぎへといざなう。
やがてあなたは、魚になる。
すべての生物は海から生まれたように。
ヒトの魂も海へと還っていく。
水瓶座のマークを刻み、一歩を踏み出す。
そして自分が自由な魚であることを認識する。
青色の海の世界をイメージする。
ほら、見えてくるはず。
美しいマンタの姿が。
輝くサンゴの平原が。
おだやかで、静かで、時が止まった世界が。

そうすれば、あなたも、生まれ変われる。

8/13/2023, 12:03:25 PM

エリア


崩壊したビルのガラスは青空を映している
静寂の中、唯一聞こえるのは俺の足音のみ
無人の都市に俺だけが一人取り残されている
きっと世界中が廃墟と化しているんだろう
今が春なのか秋なのか分からない
俺は海図も持たずに海に出てしまった船頭だ

あれから何年が経過したか想像がつかない
お前を見失ってから、俺の世界はずっとこうだ
どこかで今もお前が生きているんじゃないかと
微かな希望を抱くことが俺の理性を保たせる
いつかこの気持ちが絶望に変わるんじゃないかと
内心は酷く不安になって恐怖している

お前さえいてくれれば、俺はそれでいいんだ
お前さえいてくれれば、世界はたちまち動き出す
どんなアクシデントもきっと乗り越えられるんだ
俺とお前の二人なら
どんなに時が流れても、お前を守り続けるよ
だから、早く戻ってきてくれ

すべてをやり直そう
俺とお前の二人で。

8/12/2023, 11:22:19 AM




工場のベルトコンベアをすべて停止する
もう、私のために彼らが働く必要はないから
「おやすみなさい、お疲れ様でした」
電源を落として、彼らに永遠の別れを告げる
間もなく巨大な工場に静寂が訪れる
唯一の明かりは非常灯だけ
でも、それももうじき消えるはず

私の身体は無数の鳥になっていく
痛みや苦しみは存在しない
あるのは、恍惚だけ
私はすべてを超越する
そしてこの大宇宙を漂い続けるんだ
後悔なんかしていない
忌々しい過去と対峙する必要もない

世界が私を受け入れてくれる
すべてが私を慰めてくれる
ベンゾジアゼピンで繋ぎ止めていた糸が切れる
私をいたぶっていた惑星が小さくなる
聞こえてくる、静謐なメロディー
神様がいる場所に近い所へ行く
酸素も二酸化炭素もない所へ

古びた私の肉体は鳥たちが啄んでいった
もう、何も怖くない
もう、何も悲しくない
もう、これ以上死ぬこともない
私は新しい世界で永遠に生きていくのだから…

8/9/2023, 11:36:11 PM

運命の子供たち


僕らはいつだって運命に翻弄される
最も見たくない領域は目を瞑ればよかった
そしてそのまま眠りにつけば忘れることができた
誰もがそうやって生きていると思っていた
僕もアイツもこれから先ずっと生きていくんだと。

僕は彼女と車に乗り、深夜の道路を飛ばして走る
その瞬間。
心の底から生を実感した
永遠に生きていけるような気さえした
僕らは本当に幼い子供だった

ある朝、「なんでだよ」と僕は呟く
先週までその椅子に座ってたアイツはもういない
もうこの世界のどこにもいないんだ
アイツは焼かれて灰になってしまった
国の統計の一人となった
ありふれたニュースの報道ネタとなった
アイツがこの平凡に思えた日常のなかで
どれだけ苦しんでいたのか想像がつかない
兆候はまったく感じられなかった
時間を巻き戻せばアイツを救えるのだろうか
俺はただ、肩を震わせて泣くしかなかった

これから先の未来が、ひどく虚しく苦しいものでしか感じられなくなり、以降僕は彼女とドライブすることはなくなった。

8/8/2023, 9:58:46 AM

自傷


刃物で傷を負ったとき
すぐには痛みを感じないように

じわりじわりと
私の人生も痛みだす

いつも痛みは後からやってくる

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