通り雨
僕は今、ひとまず安心したんだ
ちょうど雨が降ってきたから
傘も持っていない
雨に打たれてよかったよ
君に泣き顔を見られずにすんだからね
君は車の窓から僕を見ていた
一瞬で通りすぎて行ったけど
泣いてたのはバレなかったかい?
ならいいんだ、それで
僕だって君なんか大嫌いだから
君の優しさなんかいらない
だから僕があげた優しさも捨ててくれ
思い出も、幸せも、全部無かったことにしよう
大丈夫さ
僕らはどうせすぐに切り替えていけるから
ほら、雨も止んだよ
僕の心の雨も止んだ
髪も服もずぶ濡れだけど
大丈夫さ
どうせすぐに乾いて元通りになるのだから
爽やかな風が吹く
太陽が顔を出している
ほら、言ったろう?
日常はすぐに戻ってくるんだ
大丈夫さ、僕らなら。
神の国 Ⅱ
ごらんなさい、あのあまねく銀河を。
無数の星ぼしが煌めいています。
皆、神の御許で輝いているのです。
貴方もあそこへ行き、安らかに暮らしなさい。
恐れることは何もありません。
神の国に人種も性も民族も無いのですから。
かつて貴方は美しい大地に生を受けた。
やがて、肉体は消滅する。
しかし、魂は消滅しない。
死は全ての終わりではない。
新たな旅立ちであり、始まりなのです。
川を渡る船を出しますから、それにお乗りなさい。
私は、船の先導者となろう。
貴方が道に迷わないように。
新しい生活が待っています。
愛を受け、幸福を受け、光を受けなさい。
では、行きましょう。
感謝と神の慈愛が溢れる世界に。
エッフェル塔
地球の上に立つエッフェル塔
彼女はいつも世界を見つめている
誇らしげにそして雄大に立つ
友達に自由の女神、遠い親戚にスフィンクス
物言わぬ彼女は穏やかに立つ
自由
平等
博愛
凄惨な戦も見てきた
それでも今もなお
彼女は美しく青空に手を伸ばしている
クラス
画面の向こうで悪の軍団が行進している
『悲惨な歴史を繰り返さないように』
先生は生徒たちに向かってそう言った
誰も真面目に聞いちゃいない
そんなことよりヤりたいだけだ
誰かが僕の机に落書きをした
もう学校に来て欲しくないらしい
ずぶ濡れの上履きが気持ち悪くて仕方ない
誰かの笑い声が聞こえてきた
今すぐにでも帰りたくなった
悪の軍団は真っ黒な軍服が似合う
僕も小遣いで黒いコートを買った
ポケットがたくさんついてるヤツだ
ナイフを忍ばせておくにはちょうどいい
ハーケンクロイツに敬礼する
いつもと同じ時間に起きた
通学カバンの中には教科書は入っていない
コートをはおりサングラスをかけタバコを吸う
そのまま教室まで歩いていく
途中で何人かとすれ違ったけど無視をした
授業開始前に教室に入る
クズどもが一斉に僕を見る
カバンから秘密兵器を、ポケットからはナイフを。
どうした?いつもみたいに笑えよ。
誰一人笑っていない。僕だけを除いて。
拝啓、おかあさん
逃げ出すことだってできたんだ
船に乗って別の国に移り住むこともできた
でも、私たちはそうしなかったのは
この小さな島でしか生き方を知らなかったから
敵の艦砲射撃も、空襲も恐れてはならない
戦いに勝てばまたいつもの日常がやってくるから
兵隊さんは恐ろしい敵と戦っているのだ
彼らに敬意を払い、陛下の旗を振る
あまりにも多くの犠牲者がでても
私たちが死んでしまったとしても
この島を、国を守らなければと
学校ではそう教わった
ひとり、またひとりと命を落としていく
それは敵も同じことだった
いつか本で読んだ外国のお話
少女が夢の国へと迷い込んでしまう話
でも、私の前にウサギは現れてくれない
トランプの兵隊なら死体になって転がっている
私は夢を見ているのだろうか
死んでしまえば、この悪夢から覚めるのだろうか
校庭には死んだ友達が楽しそうに遊んでいる
私もそこに行けるだろうか
ここが地獄なら、きっと向こうは天国のはず
ふと、お母さんに会いたくなった
声が懐かしくなった
匂いが懐かしくなった
お母さん。
生きているなら会いたくなった