John Doe(短編小説)

Open App

拝啓、おかあさん


逃げ出すことだってできたんだ
船に乗って別の国に移り住むこともできた
でも、私たちはそうしなかったのは
この小さな島でしか生き方を知らなかったから

敵の艦砲射撃も、空襲も恐れてはならない
戦いに勝てばまたいつもの日常がやってくるから
兵隊さんは恐ろしい敵と戦っているのだ
彼らに敬意を払い、陛下の旗を振る
あまりにも多くの犠牲者がでても
私たちが死んでしまったとしても
この島を、国を守らなければと
学校ではそう教わった

ひとり、またひとりと命を落としていく
それは敵も同じことだった
いつか本で読んだ外国のお話
少女が夢の国へと迷い込んでしまう話
でも、私の前にウサギは現れてくれない
トランプの兵隊なら死体になって転がっている
私は夢を見ているのだろうか
死んでしまえば、この悪夢から覚めるのだろうか
校庭には死んだ友達が楽しそうに遊んでいる
私もそこに行けるだろうか
ここが地獄なら、きっと向こうは天国のはず

ふと、お母さんに会いたくなった
声が懐かしくなった
匂いが懐かしくなった
お母さん。
生きているなら会いたくなった

7/1/2023, 12:57:03 AM