15の夏
15の夏、私は大人になった
意味のない理由ならいくらでもある
学校に居場所がなかったから
クラスの皆と私は違ったから
そんな心の閉塞感から逃げたくて
酒と大人の男に手を出した
けだるい夏の雨の下で
不登校になった私は酒ばかり飲んでいた
気がつけば夏休みに入っていたけど
どうでもいいことだった
幼稚な私は自分の将来に何の興味もなかった
愛を知りたくて、知らない男と交わった
15の夏
それは私がみんなより早く大人になった季節
家族のことなんてどうでもよかった
一人前の大人になったのだから
サイレンの音に吐き気がした
男はどうなったか知らない
私は入院した
病室の窓から入道雲を見た
私の身体に新しい命が芽生えたのを聞いた
少しも嬉しくなかった
15の夏、私は大人になったと同時に
自分自身を廃人にした。
非常口
いい加減にしてくれ
僕はもう疲れてしまったんだ
時計は止まってしまったんだ
意味をなくしてしまったんだ
答えを見失ってしまったんだ
両手は拘束されている
心は壊れかけている
何もかも手遅れなんだ
光が見えるけど希望の光じゃない
僕には分かる
非常階段に続く終わりへの扉が
すべてを終わらせて欲しい
解放されたい
無菌室に閉じ込められている
早くここから出して欲しい
髪の毛がまた抜けた
僕の身体はもう元に戻らない
誰にも会えない
こんな地獄はもうたくさんだ
ヘリコプター
ビルの屋上に立って空に向かって腕を伸ばす
ほらプロペラの飛行音が聞こえてくる
私のヘリコプターが迎えに来たんだ
迎えに来たんだ
迎えに来たんだ
残念ながらここに神様はいなかったようだ
あるのは瓦礫のような薄暗い町だけ
雲の間からヘリコプターが降りてくる
降りてくる
降りてくる
さっきファーストフードで昼食を食べた
私の好物のチーズバーガーを二つ食べたの
私はヘリコプターに乗って上昇していく
上昇していく
上昇していく
相変わらず空は曇ったままだった
パイロットは無表情で操縦している
飛行音が絶えずリズムを奏でている
バ バ バ バ バ
バ バ バ バ バ
空のどこかには神様がいるかもしれない
どうでもいいことだ
私が向かう場所にそれは必要ないもの。
ニライカナイ
ある男の子の場合。
その男の子は戦士に憧れていた。
大切な人を護るために戦う英雄。
たとえ自分を犠牲にしてでも、悪と戦う誇り高きヒーロー。
なんの淀みも濁りもない純粋無垢な精神。
戦いの中倒れたとき、天国で仲間たちと出会うことを信じている。
ある女の子の場合。
その女の子は白雪姫に憧れていた。
おめかしして、素敵な王子様とデート。
甘いお菓子に紅茶、ほかの女の子たちとお茶会。
特別な存在で、いつも綿菓子のような心でいる。
初恋の味は、きっと甘美なものだと信じている。
そんな少年少女たちは大人を嫌っていた。
大人は汚れている。
大人の恋愛は腐敗している。
彼らが望んだものはそんな大人じゃない。
大人に身体を汚される前に。
戦士への憧れを抱いている間に。
初恋への憧れを抱いている間に。
身体がまだ綺麗で、未成熟で、美しい間に。
そんな彼らが出会ったとき。
美しいままでいるために、彼らは海へ行く。
天国では海の話をするらしいから。
ヒトは海から生まれたらしいから。
死ぬと魂は空じゃなくて海に還るから。
永遠に子供のままの魂であり続けるために。
彼らは魚になる。
夏の幻
それは車窓から見た海
巨大な雲の下の水平線が輝いていた
それは灯台の下のセーラー服の学生
その子の髪が潮風に揺られていた
爽やかな夏の匂いが僕の心を慰める
懐かしいのは母の手の温もり
涙が溢れる 苦しいほど
どうかしてしまったんだろう
センチメンタルなんだ どうしようもないほど
母が教えてくれたお伽噺
それもこんな夏が舞台だった
はるか昔の話だ うろ覚えな物語さ
でもすごく特別なんだ 僕にとって
夏の幻
それは希望でもあり 悲しみでもある
複雑な心の機械さ 苦い過去を思い出させる
母がくれた世界にただ一人 僕は生きてく
夏の日差しはお伽噺の海へ溶けて消えてった
幻みたいに切ない気持ちを抱えて…