夕陽が照らす二人分の影が、付かず離れずなことが我ながらもどかしかった。
家が近くて付き合いが長かったから。ただそれだけの理由でいつも同じ道を並んで帰った。
次第に遠くなる運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音が、夜を迎える街に溢れゆく喧騒が、他愛も無い日々の会話の後ろに流れていたことを覚えている。
放課後、家に着くまでのほんの十数分の距離。
実際に触れ合ってなんていないのに、少し大きく腕を振れば影同士は触れ合うみたいに重なって。
視線を交わし合わずとも。影だけは、確かに互いを見つめていた。
覚えている。
シロツメクサの上を舞う、モンシロチョウの群れのあどけなさを。
覚えている。
自らの足で踏み荒らしたクローバーの中から、強く育った四つ葉を見付けて喜んだあの無邪気さを。
覚えている。
爪先の鱗粉も、擦れる翅の感触も、小さな生命が掌の中で静かに終わる、その刹那も━━幼気な残虐さの前では、ただの玩具に過ぎなかったことを。
明日世界が終わるなら、「また明日」なんて挨拶も意味の無いものになるんだろう。
それでも昨日と同じにこの言葉を繰り返すのは、明日も同じ日常が続けば良いと願ってしまうから。
明日も当然のように、今日と同じ君に会いたいから。
「世界が終わる瞬間も一緒に居たい」なんて口に出せない臆病な私だから。
せめて昨日と同じ笑顔で、君と明日の約束をしたいんだ。
出逢いは人を変えるなんてよく言うけれど、どうして私は変われないのだろう。
君がどれだけ笑顔でいても、私は同じもので笑えない。
君がどれだけ泣いていても、私はそれを慰める言葉が解らない。
君がどれだけ怒っていても、私はその原因を理解する術を持たない。
君がどれだけ想ってくれていても、私は同じ気持ちを返すことが出来ない。
君と出逢っても、私の世界は変わらなかった。
ただひとつ、
私と出逢って変わってしまった、君の気持ちを羨む心以外。
誰の手も届かない存在でいてほしい。
凡人とは一線を画した存在でいてほしい。
我々の理解の範疇を超えた存在でいてほしい。
こちらを見下ろすことすらしない、孤独で孤高の存在でいてほしい。
嗚呼、私の神様。
どうか、普通の人みたいに笑わないで。
人の輪の中に溶けて行かないで。
その瞳に誰のことも映さないで。
私たちと同じ地平に立たないで。
只人に堕ちた貴方に、追い付けない私が惨めになるから。