サイコロの出目。
円周率の桁数。
一番大きい素数。
ヒトが産まれる前の星の営み。
ヒトが終わる時。
選ばなかったもしもの未来。
きっと、確かなものを神様だけが知っている。
例えば、互いの小指から伸びている赤い糸の先が違ったとしても、切り落として結び直してしまえば良い。
身も、心も、赤い糸を喰い込ませて、肌に奔る赤い傷すら繋がりに変えて、決して離れないように雁字搦めにしてしまえば良い。
運命? そんな不確かなものに身を任せてないで。
君を僕から離れられなくして、血すら交わるほど深みに君を連れて行くことが出来たなら。
ほら、勝手に繋いだ結び目なんて、君の胎に隠してしまえばもう誰にも判らないよね?
もし幸せになれるとしたら、今すぐじゃなくてい良い。
昨日までの自分に、深い沼の底まで脚を引かれて沈められてしまいそうだから。
明日明後日も変わらぬ地獄が続くとしても、いつかほんの少しずつでも好転してくれればそれで良い。
少し顔を上げれるようになれば良い。
少し息がし易くなれば良い。
少し視界に光が差すようになれば良い。
少し一歩を踏み出す足が軽くなれば良い。
そうしていつか、過去が追い掛けて来れなくなるような何処か遠い場所で、幸福が訪れてくれれば良い。
記憶は嘘を吐くものだ。
最後に会った日のことを、今も鮮明に覚えているつもりだ。
互いに別れを惜しんで泣きじゃくる幼い子供だった。
簡単に会えなくなってしまうことを理解しながら、簡単に将来の再会を誓い合える無垢な子供だった。
実際は成長と共にどちらともなく手紙を出さなくなり、五年十年経っても再会することなど無かったというのに。
それでも、今も思い出は残っている。
ただ、朧げな記憶を映し出した蜃気楼の君は、決して老いること無く笑っているのだろう。
あの日の思い出を美化したまま、自分の中で生き続けるのだろう。
世話が面倒臭いと、何度思ったことだろう。
繊細で手間ばかり掛かるくせに枯れるのはきっと一瞬で、美しく咲き続ける保証など何処にも無い。
手入れを欠かせば簡単に朽ちてしまいそうな儚さを、その程度のものだと切り捨てられればどれほど楽だったのだろう。
何もしなければ自然に淘汰されるはずだったその輝きに、魅せられ手を伸ばしてしまったが運の尽き。
いつかは朽ち果てるこの華の首を優しく手折るその日まで、自分は愚かにも、この華に尽くし続けるのだろう。