今日のそちらの空はどうですか。こちらの天気は良好です。
当たり障りの無い挨拶で書き出した手紙を、失敗作だと破って捨てた。ちょうど明日はごみ収集日だった。
今日は日差しが心地良いです。君と初めて会った日を思い出します。
思い出を綴ってやっと書き上げた短い手紙を、紙飛行機にして窓から飛ばした。行方は見届けていない。
今日は朝から雨が降っています。君が居なくなった日を思い出します。
続きの言葉が浮かばなかった短い手紙を、君との最後の思い出の場所で火に焼べた。灰は湿った風に吹かれて空に舞った。
別に天気の話がしたいわけじゃないのだけれど、手紙の書き出しにはこういう挨拶が付き物かと思って。
雲の上は、いつも晴れているのでしょうか?
雲の下の僕はいつまでも、君の居る空に想い綴っています。
いつも必死に、見て見ぬフリをしている何かがある。
歩みを止めたら追い付かれそうな、振り向いたら呑み込まれてしまいそうな。そんな、得体の知れない何かが。
追い付かれないように、脚がもつれても走り続ける。
呑み込まれないように、俯きながらでも前を目指し続ける。
決して離れることの無い影に過去を隠しながら、光の差す未来を思い描きながら。
どちらが悪かったなんて話ではないけれど、どちらかが謝って簡単に済んでしまうような気持ちなら、きっと私たちは互いを傷付けてなんかいない。
貴方が私をこの上無く大切にしてくれていること、本当はちゃんと解っている。
それでも貴方を傷付けてしまったのは、貴方のその優しさがどうしようもなく私を傷付けていたのだと伝えたかったから。
全部全部、私の我儘だって解っている。
それでもこのたった一言を躊躇ってしまうのは、ただ意固地になっているからじゃない。
謝ってしまったら、優しい貴方はきっと赦してしまうから。
貴方を傷付けた酷い私を、どうか赦さないで欲しいから。
袖から覗くその白く細い腕に手を伸ばして。
伝う汗のひとつひとつに舌を這わせて。
吸い付くような軟い肌に幾つも赤い花を咲かせて。
他の誰にも見せられないような、僕の独占欲に塗れた君にしたいと喉を鳴らしてしまうのは。
きっと夏の暑さに浮かされたせい。
喩え死後に逝き着く先が、天国だろうと地獄だろうと。
現世に生きる今だけが全て。