ずっと、降り止まなければ良い。
鼻を突く雨の匂い。吸う息は湿気で重苦しい。顔に髪が張り付く。服が水を吸って重くなる。肌を伝い、生ぬるくなった雨特有の不快感に全身を包まれる。
それでも、足取りは決して重くない。
世界を満たす雨音は心地良く、耳障りなものを消し去ってくれる。視界を暈かし、見たくないものを遮ってくれる。
私の声は届かなくて良い。
雨音が消し去ってくれるから。
私の傷に誰も気付かなくて良い。
血も涙も、雨が流し去ってくれるから。
私の醜悪な心に、誰も気付かなければ良い。
流し落とせない私の醜さを覆い隠す為に、ずっと雨が止まなければ良い。
例えば、優しい人になりたい?
例えば、賢い人になりたい?
例えば、見目麗しい人になりたい?
例え話をを並べ立てて、コラージュした理想像はまるで別々のピースを無理矢理組み上げて作ったパズルのようだ。
遠目で見れば、それは理想を描いた肖像画かも知れない。
けれど近くで見てしまえば、それはひとつひとつは意味を持たない歪な何かなのかも知れない。
どれだけ歪になっても、貴方の思う理想の僕でいたいと己を律する反面。
貴方の本心に触れるのが怖くて、決して僕の理想の貴方を崩して欲しくないと願うのは、
美しい肖像に囚われた僕の、自分勝手なエゴなのだろうか。
明日突然、君に会えなくなったとして。
きっと僕は、大して変わることもなく生きていけるのだろう。
世界はどれだけ広くても有限で、僕らはその中で一度でも縁が交わったのだから。
何処かでまたいずれ交わることもあるかも知れないと、君が居なくても立てる僕は楽観するのだろう。
明日突然、君が死んだとして。
きっと僕は、大して変わることもなく生きていけるのだろう。
君という大きな欠落を埋められないまま、君の居ない世界を生きていくのだろう。
甘酸っぱくて、胸を躍らせるような。誰もが当たり前のように思い描ける恋物語-ロマンス-なんて要らない。
眩い輝きと仄暗い欲を内包して、己の醜さを曝け出してでも手に入れたいと思えるような激情に、
愛って名前が付けば、それで。
月明かりは好きだ。
月の輝く夜は、ほんの少し、カーテンを開けて眠りに就く。
本当は夜空を眺めていたいけど、朝日は眩しいから。
輝きに、目を灼かれてしまうから。
月も無く、星も瞬かない夜は、部屋の隅の常夜灯を点けて眠りに就く。
夜目の効かない臆病な自分が、暗闇に怯えずに済むように。
目が覚めた時、光が失われていないように。