洗練された。
美しい小瓶で
煌めく香水ですら
敵うものはなく。
どんな、香水よりも
あなたの首筋から香る
あの匂いに、私は溶ける。
【お題:香水】
母は、イラついたように
広げられたテストの端を指で弾き
深いため息をつく。
点数は悪くなかった。
ただ、満点ではなかった。
『ごめんなさい』
「謝罪は要らないの、結果にして頂戴!」
上司は、イラついたように
私に任せっきりだった資料を丸め
ゴミ箱に投げ込んだ。
資料は、完璧だった。
が、完璧が故に気に食わないようだった。
『すみませんでした』
「気が利かないんだよなぁ、入社何年目よ。
そういうのは、言わなくても察するもんだよ?」
ことば、言葉、要らないもの。
結果を出せば、気が利かないと言う。
何も言わなければ、ヒソヒソと
誰かが囁いている。
だけど、私は…
神様、次に生まれてくるときは
どうかどうか…言葉の要らないモノに
変えてください。
言葉を交わさずに、愛されるような
そんな世界があるのならば。
『人間』である、必要はきっとないから。
【お題:言葉は要らない、ただ⋯】
高く積み上がった書物に埋まるように
黙々と必要な情報を追いかける。
西陽が少し眩しいなと…
ふと、顔を上げると君が居た。
束の間の沈黙。
『相変わらず、すげぇ集中力だな』
彼は、少し呆れたように
ぐーっと伸びをして
そのまま高く上げた手で私の頭を撫でた。
『相変わらず、ボサボサだ』
私は、ぼろぼろとこぼれ落ちる涙も
ここが図書館であることも
高く積み上がった書物も何もかも
忘れて、目の前の彼に抱きついた。
「来週って…帰るの来週って…」
優しく包み込むように、背中をさすって
くれる彼は
『けど、もっと早く会いたかったから』
と、静かに囁いた。
【お題:突然の君の訪問。】
ぼちぼち、良い歳になる。
家庭を築き、母親になり。
歩幅の合わない、パートナーとも
連れ添って10年…14年にもなろうと
している。
ひとりになりたい。
ふと思い立ち、雨降る夜、外に出る。
傘も要らぬほどの小雨。
遠くの空では、雷が光っている。
あの雷が一瞬にして
私の元まで走り稲妻を落とす確率は
どれくらいだろうか。
バカな空想だ。きっと私は疲れているんだ。
だけどもう少しだけ、ひとりでいたい。
小雨がいつの間にか
大粒の雨に変わり、アスファルトを
強く打つ。
その中で、私はひとり、雨に佇む。
【お題:雨に佇む】
波音だけが世界を包む
夜の海で
孤独で、居られるこの瞬間が
心地よかった。
きらびやかな、夜の街に潜む日常から
解き放たれる。
この闇が、私には優しい。
誰よりも高い高い場所で
眩し過ぎる照明とライトを浴びて
眠らぬ街から、私は離れた。
限りある人生と、夜の海。
どうやって生きて行こうか
彷徨える…それが、いまの幸せ。
【お題:夜の海】