NoName14

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8/10/2023, 12:16:01 PM


「終点です。」

その声に、はっと目を覚ます。

「随分と、お疲れ様のようで…」

少し困ったように、年配の車掌が
いつの間にか散らばってしまっていた
資料を拾い上げ手渡してくれた。

すみません!
そう、声をあげる前に

「身体に、気をつけて」と、何故か車掌は
意味深に肩をぽんと叩き去ってしまった。

まだ、寝ぼけているのか
見知らぬ駅だ。寝過ごして終点に
着くなんてここ最近じゃ、よくある事なのに。

ふらふらと駅を出ると…目の前には
黄金に輝く稲畑と、夕焼け空。
まだ、夢の中なのか?
沢山の赤とんぼが、舞い飛ぶ田んぼの中を
少年が無邪気に走り回っている。

ぁあ…と、膝から崩れ落ちる。
いつの間にか、涙が溢れて止まらない。

肩をぽんと叩いたのは

「父さん…」

田舎が、嫌いだった。
都会の暮らしに憧れて、がむしゃらに
働いた。何年も連絡ひとつしなかった。
最期に見た父さんは、見る影もなく
痩せていた。

その後も目的も見つからない
都会の暮らしにしがみついた。

だけど、本当に求めていたのは…

黄金に輝く稲畑に目を向けると
あの日の父さんが、遠くに立っている。
強く逞しく男らしいあの姿のまま。

「父さんみたいに、なりたかったんだ」

目を覚ますと、自宅の玄関に
倒れ込んでいた。
未だに、涙は止まらない。

俺は、徐に封筒を取り出し
徐に辞表と書き出した。

街での暮らしは、もう終点だ。
俺は故郷に戻る。
そこが、また新たな起点になると信じて。


【お題:終点】

8/7/2023, 2:20:20 PM


良いことも、悪いことも
最初から決まっていた。

それを、運命と言うのだろうか。

運命に、振子のように右左と
振り回される。
それでも、何かを得ようと頭を使い
自分に問う。

これは、最初から決まっていたこと。

ただこれは、私の人生。
私は運命に持ち上げられた踊子ではないのだ。

最初から決まっていた事すら
気に食わなければ、後から変えてやれ。
どこまでも、しなやかに。戦え。


【お題:最初から決まってた】

8/6/2023, 3:04:31 PM


あなたは、海であり太陽。

この星の力。
そのもののようなパワー

身体も心も人生すらも
冷えきった時に、命の熱さに
気付かせてくれる。

そうして、何度でも
踏み止まることができるの。

あなたは、私の太陽。
手が届けば、焼け落ちてしまう。
たとえ、どれほどの距離があろうとも

月夜に憂う、日々が続いても

あなたは、私の太陽。
きっとまた出会いたい、唯一無二の存在。


【お題:太陽】

7/27/2023, 10:49:52 PM


神様が舞い降りてきて、こう言った。

「赦して、進め」と。

私は両手で覆っていた顔を
上げて、神様を見上げた。

殴られ、痣だらけの私を
静かに神様は、見下ろしている。

神様の顔に、痣はなく
とても美しい。
家中引き摺り回され、ボロ衣のような
私とは違う。

腹の中で沸々と湧きそうになる
怒りを堪えて
私は、顔を背けた。

神様は、立ち去らない。
それどころか
私の背中をさすり、耳元でこう囁いた。

「よく見なさい、出口は直ぐそこにある」

はっ…とした。
外に出る扉に、鍵はかかっていない。

そして私は……


【お題:神様が舞い降りてきて、こう言った】

7/27/2023, 12:04:15 AM


誰かの為になることで
自分の居場所を確保しようと
必死だった。

誰かの為になることなんて
誰も気付かないことなんだと…
知ってからは、後ずさり。

空回り。恥ずかしい。偽善者。

こんな風になるなんて…と
自分で貼り付けてしまった
レッテルを、泣きながら剥がした。

誰かの為は誰の為…

分からぬまま、彷徨いながら
私は塵になる。


【お題:誰かの為になるならば】

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