NoName

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6/24/2024, 1:26:01 PM

1年後


「誕生日おめでとう!」

そう言ってクラッカーを鳴らす俺。
ここは、今日誕生日の彼の入院する病室で。
俺が入るなり、クラッカーを鳴らしたものだから。

「っ、わぁっ、びっくりした」

君だったのか、君のそんな大きな声初めて聞いたよ、と。
驚きの余り、目を丸くした彼に、そんなことを言われる。

普段の俺は、どちらかといえば、おとなしい性格をしているし。
騒がしいのは苦手だ。

ここに入院していた時も、彼に声を掛けてもらうまで、俺は毎日一人で読書ばかりしていたぐらいだ。
だから、彼には感謝している。
本当は一人きりで病室に居るのが、寂しかったから。
彼に出会えて、彼と過ごす入院生活が楽しくなってきた頃、俺は退院したんだけど。

今日は、大切な友人である君の誕生日、という特別な日だから。
どうしてお祝いしたくて、お見舞いに来たのだった。

「久しぶりだね、元気そうで良かったよ」

俺の様子を見て、ベッドから起き上がった彼が言う。

君も、なんて言いたかったけど。
ベッドから起き上がるのも少ししんどそうな彼に。
そんなことは言えなかった。

「本当はさ、手作りのケーキを持ってくるつもりだったんだけどね、失敗しちゃったんだ」

「あぁ、気にしないで。君がこうして祝ってくれるだけで嬉しいから」

「そう?けど、来年こそ上手く作ってみせるよ」

その時は食べてくれる?なんて。
俺が訊ねると、彼の表情が暗くなる。

「……来年、か。俺、一年後もここにいるのかな」

嫌だな、けど、生きているだけマシなのかな、と。
彼が俯いて、独り言みたいに小さく呟くから。

そうか、君はもう何年も入院してるんだったよね。

怪我で入院した俺と違って、彼は幼い頃から重い持病があるらしいのだ。
病気の話は、彼の表情を曇らせるだけだから、あんまり話したことはないけれど。

だから、こんな時に軽々しく、大丈夫だよ、きっと良くなってるよ、とは言えない。
でも、少しでも君に笑ってほしくて。
一人で退屈だった俺に、君が太陽みたいな笑顔で接してくれたみたいに。

俺だって、君の太陽になりたいから。

「俺は何があっても一年後も必ず、君の誕生日をお祝いするよ」

だから、どうか生きることを諦めないで。
一年後も、その先もずっと、君の誕生日には俺がいるから。


                      End

6/23/2024, 11:24:00 PM

子供の頃は


幼い頃の僕と君はどこに行くのも、手を繋いで歩いた。
そんな僕と君を見て、お母さんや周囲の人達は。

『可愛いね』

『仲良しで良いね』

なんて、よく褒めてくれた。
それは、僕と君の関係が特別なものだって言われてるみたいで。
幼いながらに、君への独占欲があった僕は嬉しくて堪らなかったのを、よく覚えている。

でも、少しずつ、大人に近づいていくと。

「ねぇ、手繋ごうよ」

「……ヤダ。人多いじゃん」

「だから、はぐれないように、でしょ?」

「……はぐれないよ。俺達、もうそんな子供じゃないんだし」

なんて。
僕が手を繋ごうと誘っても。
いつからから、君は顰めっ面で首を左右に振るようになって。
それがとても寂しい気持ちになる僕。

……どうしてなの?
小さかった頃は、君も楽しそうだったし。
母さん達だって、喜んでくれていたのに。

僕が寂しさから、手をブラブラとさせていると。
そんな僕の腕を彼がぎゅっと掴んで。

僕の顔をじっと覗き込んでくる。

「……人がいないとこなら、手を繋いでも良いよ」

なんて。
薄っすらと頬を染めた君が可愛いくて。
僕が思わず、彼を抱きしめそうになれば。

「っ、バカ。それはここじゃもっと駄目だろ!」

「ってことは、ここじゃなかったら良いの?」

僕の弾んだ声に、顔を真っ赤にした君がこくりと頷いた。


                      End

6/23/2024, 12:45:57 AM

日常


「今日は何するの?」

「そうだなぁ。せっかくの休みだしな……」

「出掛ける?どっか遊びに行っちゃう?」

「いや、ダラダラ過ごす」

えぇー、なんでよ。
せっかくの休みとか言ってたクセに。

と、がっかりした気持ちを込めて、口に運んだシリアルを咀嚼する俺に。

スプーンをブラブラとさせた彼が。

「ダラダラ過ごすのも、休みじゃなきゃ出来ないんだから。そんなに悪くないと思うけどなぁ」

なんて。
俺の残念そうな様子に気が付いたらしく。
そんなことを溢して。
ふあぁ、と欠伸をするから。

まだ寝てたいところを、こうやって俺と一緒に朝ごはんを食べる為に起きてくれた、彼の優しさを感じた。

だから。
俺は彼ににっこりと笑って。

「そうだね。のんびりするのも悪くないかも」

「そうだよ。それじゃ、一緒に二度寝でもする?」

「いいよ。そうしよっか」

俺と彼は、朝ごはんであるシリアルを食べ終わった器を、キッチンの流し台に置くと。
二人で、一つのベッドに潜り込む。

これが、俺と彼の幸せな日常だ。


                      End

6/21/2024, 10:55:20 AM

好きな色

「俺は青が好きだな」

「俺も赤が好き」

それじゃあ、一緒だね、ってお互いに笑い合って、手を繋ぐ。
そんな夕暮れ時の空が紫色をしているから。

「今の俺達みたいな空だ」

「ホントだ、俺とお前が混ざった色じゃん」

俺、紫が一番好きな色だな、と。
名前通りの色に頬を染めた彼がぽつりと溢す。

「あはは、お前顔真っ赤だぞ」

俺はやっぱり赤が一番好きな色かな、可愛いもん、と。
名前通りの色を連想させるような、爽やか笑顔で、隣に並ぶ彼が言う。

そんな青によって、赤がもっと濃く染まるのだった。


End