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1年後


「誕生日おめでとう!」

そう言ってクラッカーを鳴らす俺。
ここは、今日誕生日の彼の入院する病室で。
俺が入るなり、クラッカーを鳴らしたものだから。

「っ、わぁっ、びっくりした」

君だったのか、君のそんな大きな声初めて聞いたよ、と。
驚きの余り、目を丸くした彼に、そんなことを言われる。

普段の俺は、どちらかといえば、おとなしい性格をしているし。
騒がしいのは苦手だ。

ここに入院していた時も、彼に声を掛けてもらうまで、俺は毎日一人で読書ばかりしていたぐらいだ。
だから、彼には感謝している。
本当は一人きりで病室に居るのが、寂しかったから。
彼に出会えて、彼と過ごす入院生活が楽しくなってきた頃、俺は退院したんだけど。

今日は、大切な友人である君の誕生日、という特別な日だから。
どうしてお祝いしたくて、お見舞いに来たのだった。

「久しぶりだね、元気そうで良かったよ」

俺の様子を見て、ベッドから起き上がった彼が言う。

君も、なんて言いたかったけど。
ベッドから起き上がるのも少ししんどそうな彼に。
そんなことは言えなかった。

「本当はさ、手作りのケーキを持ってくるつもりだったんだけどね、失敗しちゃったんだ」

「あぁ、気にしないで。君がこうして祝ってくれるだけで嬉しいから」

「そう?けど、来年こそ上手く作ってみせるよ」

その時は食べてくれる?なんて。
俺が訊ねると、彼の表情が暗くなる。

「……来年、か。俺、一年後もここにいるのかな」

嫌だな、けど、生きているだけマシなのかな、と。
彼が俯いて、独り言みたいに小さく呟くから。

そうか、君はもう何年も入院してるんだったよね。

怪我で入院した俺と違って、彼は幼い頃から重い持病があるらしいのだ。
病気の話は、彼の表情を曇らせるだけだから、あんまり話したことはないけれど。

だから、こんな時に軽々しく、大丈夫だよ、きっと良くなってるよ、とは言えない。
でも、少しでも君に笑ってほしくて。
一人で退屈だった俺に、君が太陽みたいな笑顔で接してくれたみたいに。

俺だって、君の太陽になりたいから。

「俺は何があっても一年後も必ず、君の誕生日をお祝いするよ」

だから、どうか生きることを諦めないで。
一年後も、その先もずっと、君の誕生日には俺がいるから。


                      End

6/24/2024, 1:26:01 PM