テーマ『風景』
天気がいいので、昼休みに会社近くの公園でお昼を食べることにした。
先週まで満開だった桜はもう半分くらい散ってしまっている。少し残念に思いながら、適当なベンチに座った。
コンビニで買ったサンドイッチを食べていると、風景画を描いている老人が目に入った。ちょうどベンチから見えるその絵は、それはもう見事なまでに満開の桜が描かれていた。
(風景画って、見た通りに描かなくてもいいんだ)
もしかしたら、満開の時期に描き始めた絵がまだ完成していないだけ、の可能性もあるけど。ちょっとしたお花見気分は味わえたかもしれない。
テーマ『鏡の中の私』(『君と僕』は思いつかなかったので)
早朝。最低限の化粧をするため、曇った鏡を覗き込む。そこに映っていたのは、朝だというのに疲れきった顔をした私だった。
連日、朝早くから遠くの会社へ満員電車に詰め込まれて行き、夜遅くまでエナジードリンクを流し込みながら仕事をする日々。家に着くのは日付が変わろうとする頃。
(なんか平気な気分だったけど、そんなわけないか……)
仕事自体は楽しく、体の疲れを無視していた。だが、こんな顔をしている人間が疲れていないわけがない。
風邪とか言って休もう。そう決意して、スマホを手に取った。
テーマ『叶わぬ夢』(青空文庫記法のルビ使用。|漢字《ルビ》)、『夢へ!』は時間がないので過去のストックから投稿)
戦場に、槍がぶつかり合う音が響く。突く、薙ぐ、引くと見せかけて払う。それを防ぎ、いなし、避け、一瞬の隙を突いて攻めに転じる。
一騎討ちが始まって、少なくない時間が過ぎていた。中々決まらない勝負。だが、俺は確かな高揚感を感じていた。目の前で殺し合ってる好敵手も同じに違いない。愉しくて愉しくて仕方がないと言わんばかりの笑顔を浮かべている。俺も同じ顔をしているのが分かった。
その頬を奴の槍が掠めて薄く皮膚を裂く。血が流れるのをお構いなしにこちらの槍を払う。奴の横っ腹に当たる。ミシリと音がして、確かな手応えを感じる。奴は一瞬、その顔を苦痛に歪めたが、すぐに押し返して胸に向かって槍を突き出してきた。大きく飛び退いて距離を取る。
一瞬の休息ののち、また槍がぶつかり合う。
(この時間が永遠に続けばいい)
それは叶わぬ夢。神仏でもない俺たちには体力の限りがあり、互いに背負う国がある。終わりはいつか訪れる。
奴がよろめいた。決定的な隙。ここで喉元に向かって槍を真っ直ぐに突き出せば、勝負は決まる。
――|決ま《終わ》ってしまう。
その思考が過ぎった瞬間、槍の動きが鈍った。奴はすぐに体制を立て直すと心の臓目掛けて槍を突き出してきた。大きく仰け反って避ける。
「どうした! 今になって怖気づいたか!!」
俺が何に躊躇《ちゅうちょ》したのか分かっているのだろう、奴はこちらを睨みつけて怒りをあらわにした。ああ、今のは好敵手に対して一番やってはいけないことだった。俺も同じことをされたらキレる。
何か言おうとしたところで、部下の「殿ー!」という声が聞こえた。向こうからも、何度か見たことのある奴の部下が走ってきている。焦った様子から、この戦にちょっかいをかけようとしてる輩でもいるのだろうと当たりを付ける。命知らずめ。
互いに槍を降ろす。一騎討ちは引き分けになった。
「……怖気づいた、か。その通りだ。二度としねぇ」
「そこは認めるんだな。いつもは意地っ張りの癖に」
「意地っ張りはお前もだろ」
「一緒にするな。……待たせたな、報告を聞こう」
こちらが言い返す前に、奴は部下と共に自陣に戻っていった。
「俺たちも戻るぞ」
「はっ」
踵を返し、槍を担いで自陣に向かって歩く。この戦いは数ヶ月振りだった。次に奴と戦えるのはいつだろう。
一度振り返りかけて、やっぱり止めた。
テーマ『元気かな』
――拝啓、終生の友へ。
長いこと会っていないが、君は元気かな。
私は、この手紙を書いている今は元気だが、君がこの手紙を読む頃には死んでいるだろう。
こういうのは一度書いてみたかったんだが、まさか本当に書く機会が訪れるとは。人生分からないものだ。
手紙が来るより前か先かは不明だが、私のいる国が危機的状況なのは君のところにも伝わっているだろう。全く、戦争なんてろくでもない。
私も最善は尽くすが、生き残れる見込みは少ない。だからこの手紙を書いたんだ。後悔しないようにね。
(思い出話が数ページに渡って続く)
最後に。いつか君の前で、この手紙を笑って破ける日が来ることを願おう。
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「何が終生の友、だよ」
手紙を読み終えて、僕は力なくため息をついた。
手紙が書かれたのは何ヶ月も前。地球の裏側まで航海するのがいかに難しいかは分かっているつもりだ。それでも。
何の力にもなれなかったのに、友と言えるのだろうか。そう思わずにはいられなかった。
テーマ『遠い約束』
「約束しよう。僕はこの国を変えてみせると。だから、協力してくれないか?」
そう友に語ったのはいつだったか。酒が旨かったのを覚えている。
「貴方の頼みなら、喜んで」
そう言って、友は微笑んだ。
「最期に言い残すことはあるか」
処刑人が剣を構える。今のが、走馬灯というのだろう。
「いいや。ひと思いにやってくれ」
キツく縛られた手足が痛い。この国のために、と奔走した男の最期が処刑か。世の中そう上手くはいかないな。
あの日友と交わした約束は、果たせなかった。向こうに行ったら怒られそうだ。
空を見上げる。秋の澄みわたった空。そこへ剣が視界に入り。
振り下ろされた。