テーマ『叶わぬ夢』(青空文庫記法のルビ使用。|漢字《ルビ》)、『夢へ!』は時間がないので過去のストックから投稿)
戦場に、槍がぶつかり合う音が響く。突く、薙ぐ、引くと見せかけて払う。それを防ぎ、いなし、避け、一瞬の隙を突いて攻めに転じる。
一騎討ちが始まって、少なくない時間が過ぎていた。中々決まらない勝負。だが、俺は確かな高揚感を感じていた。目の前で殺し合ってる好敵手も同じに違いない。愉しくて愉しくて仕方がないと言わんばかりの笑顔を浮かべている。俺も同じ顔をしているのが分かった。
その頬を奴の槍が掠めて薄く皮膚を裂く。血が流れるのをお構いなしにこちらの槍を払う。奴の横っ腹に当たる。ミシリと音がして、確かな手応えを感じる。奴は一瞬、その顔を苦痛に歪めたが、すぐに押し返して胸に向かって槍を突き出してきた。大きく飛び退いて距離を取る。
一瞬の休息ののち、また槍がぶつかり合う。
(この時間が永遠に続けばいい)
それは叶わぬ夢。神仏でもない俺たちには体力の限りがあり、互いに背負う国がある。終わりはいつか訪れる。
奴がよろめいた。決定的な隙。ここで喉元に向かって槍を真っ直ぐに突き出せば、勝負は決まる。
――|決ま《終わ》ってしまう。
その思考が過ぎった瞬間、槍の動きが鈍った。奴はすぐに体制を立て直すと心の臓目掛けて槍を突き出してきた。大きく仰け反って避ける。
「どうした! 今になって怖気づいたか!!」
俺が何に躊躇《ちゅうちょ》したのか分かっているのだろう、奴はこちらを睨みつけて怒りをあらわにした。ああ、今のは好敵手に対して一番やってはいけないことだった。俺も同じことをされたらキレる。
何か言おうとしたところで、部下の「殿ー!」という声が聞こえた。向こうからも、何度か見たことのある奴の部下が走ってきている。焦った様子から、この戦にちょっかいをかけようとしてる輩でもいるのだろうと当たりを付ける。命知らずめ。
互いに槍を降ろす。一騎討ちは引き分けになった。
「……怖気づいた、か。その通りだ。二度としねぇ」
「そこは認めるんだな。いつもは意地っ張りの癖に」
「意地っ張りはお前もだろ」
「一緒にするな。……待たせたな、報告を聞こう」
こちらが言い返す前に、奴は部下と共に自陣に戻っていった。
「俺たちも戻るぞ」
「はっ」
踵を返し、槍を担いで自陣に向かって歩く。この戦いは数ヶ月振りだった。次に奴と戦えるのはいつだろう。
一度振り返りかけて、やっぱり止めた。
4/11/2025, 3:52:25 AM