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1/13/2023, 12:58:13 PM

 夜に見る夢の終わりはいつも唐突だ。いい夢ほど現実に返るのが早い気がする。まだ夢を見てたかったのに気づけば夢のカケラしか残らない。次の日に夢が持ち越される訳でもなし。
 そういうとき、私は落胆と共に諦めてさっさとベッドから起き上がる事にしている。
 けれど、本当は。
 出来れば夢を見てたい。
 ずっと、ずっと。

1/12/2023, 11:44:01 AM

 冬の休日。
 遅めに起きてカーテンを開けると、晴れた日は差し込んでくる陽の光。
 その暖かさに、穏やかな冬晴れの一日に、ずっとこのままでいて欲しい、と思う。
 なのに、日暮れなんて来なければいいのに、午後の3時辺りからもう日差しは黄昏の気配。そうして4時半をすぎる頃には、お日様は山の中に隠れてしまうのだ。
 永遠の時間というものは、人の記憶の中にしか存在しないものなのかもしれない。
 

1/11/2023, 11:41:10 AM

 冬はつとめて、と言うけれど、冬の朝はともかく寒い。
 薄紫色の明け方の空。月も星も冴え冴えと澄んで、凛と浮かぶ夜明けの空気は見てる分にはキレイだけど、一歩外に出たらえらい目に合う。どんなに防寒をきっちりしても、靴のつま先から手袋の指先から、マフラーの上白い息を吐いた口から頬から顔から、一気に体の芯まで氷漬けにされてしまう。
 なのに、私は時々、冬の晴れた夜明け前に外に出る。
 寒さが身にしみるだけしみて、景色どころじゃないのに、その空気を肺いっぱいに吸い込んで少しむせるのがお決まりになっている。
 そうして、山の稜線を染めて顔を出す朝日の例えようもない光の美しさに見惚れるのだ。

 元日でもないのに冬の朝に早く起きるのは、一重に、その、冬の朝日に魅了されてしまったからかもしれない。

1/10/2023, 10:38:33 AM

 色々後ろ暗いことがあって、20歳の式典へは行かなかった。
 ただ、着物は着てみたくて、写真屋でレンタルして写真だけは撮った。
 その日の夜、家族に見守られながら初めてのお酒も味わった。お猪口に一杯の甘口の日本酒。
 喉越しのいいそれが、じんわりと熱をもって胃の中に落ちてゆく。
 大人って美味しい。

 今、選挙に行ける歳は十八歳に引き下げられたけど。それでもトクベツ。
 20歳の日。

1/9/2023, 12:12:24 PM

「君にお願いがある。
 もしこの世界が終わるなら
 僕は君と一緒にその瞬間が見たい」

 私が彼にそんな事を言われたのは、彼の恒例の天体観測に付き合った、寒い冬の晩だった。三日月の仄かな明かりと星々が輝く星月夜の晩。
 最新の望遠鏡の調子を見ていた彼は、望遠鏡の焦点を定めると、ふいに、椅子を寄せて隣に座っていた私を真剣な眼差しで見つめてきてそう言った。
 私は、婚約者の真剣な表情に高鳴る鼓動も熱くなっていく頬も知らぬふり、小首をかしげてみせる。

「この世界が滅ぶのなんて、ずっとずっと未来の話じゃない?
 私もあなたも生きていないわ」
「いや、判らないよ?
 巨大な隕石が落ちてきたら、今の文明はひとたまりもない。下手したらそれでこの星は終わるかもしれない――――というのは冗談だけど。
 もしも、の話だよ」

 彼は真剣な顔を破顔させ、もしもそうなったら、と念押しのように言った。そして、だめ? と眉を下げてくる。
 私は、彼のその表情に弱い。
 きゅう、となった心臓に、どこまで彼は計算づくなのかと愛しさ半分少し憎たらしくも思いつつ、タイミングが合えば、と可愛くない返事をした。
「もし、その時一緒にいたら、一緒に見るわ」
 その私の済ました言い分に、そんなこと! と彼はさも当たり前のようにこう言う。
「居なかったときは君を捜すよ。
 じゃあ、手を繋いで一緒に見ようね?」
 そう言って自信満々に差し出してくる小指に、私は、強がるのをやめて小指を絡めた。だいたい、強がっても彼の前には無力なのだった。だって大好きな大好きなひとだから。
 だからさっきから熱い頬のまま、にっこり微笑んでこう返す。
「私もあなたを捜すわ!
 手を繋いで一緒に。約束よ?」
 そう言って絡めた小指を軽く握り込めば、息を呑んだ音のついで、彼も強く小指を握り返してくる。 
 瞑っていた目を開けると、とびきりの笑顔に迎えられた。
『約束!』
 二人して額を擦りつけあい、クスクスと笑いあう。
 そうして始まった天体観測の最中、私は彼と同じ星々を望遠鏡で観測して、ミルクティーを飲みながらこんなことを考えていた。

 この世界の滅びなんて大層なものでなくとも、人一人の世界の終わりは死だろう。
 ならばさっきの約束は、どちらかの死の瞬間、手を繋いで一緒にいてほしいと言われたに等しいのではないか。

 その考えは、すでに貰っているプロポーズをもう一度貰ったかのようで、私の心臓をずっと高鳴らせている。




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