「もうおひさまが高いとこにいますよ〜」
甘い声に導かれて目を開けると、恋人が俺を見つめてくれていた。
「おはようございます。凄くよく眠っていましたね」
彼女から朗らかに言われて気がつく。
そう言えば、ひとりの時は夢を見て深く眠ることが少なくて、それが悩みのひとつだったな。
「おはよ。よく、眠れたみたい」
「うふふ、それなら良かったです」
まるで猫がゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄るみたいに彼女が俺に寄りかかる。
ああ、この温もりが心地いい。
彼女を抱きしめながらもう一度瞳を閉じる。
「また寝ちゃうんですか〜?」
彼女の声が遠くなる。
甘やかな香りと体温に幸せを感じながら意識を手放した。
おわり
六一四、海の底
身体が疲れるのは別に構わないんたけどさ、精神的にツラい時のほうが堪えるんだよね。
変なことばかり考えちゃってさ。
表面的に取り繕った笑顔が剥がされそうになる。
好きな飲み物を飲んで癒されるけれど足りない。
それだけじゃ足りないんだ。
瞳を閉じて空を仰ぐ。
冷たい風が頬に当たって熱を帯びた頭が冷えてくる。
深いため息がこぼれ落ちた。
「あの子に会いたいなぁ……」
そんな言葉と一緒に。
おわり
六一三、君に会いたくて
恋人と一緒に住むために引越しをしている時、荷物のはしに小さなノートが出てきた。
少し色褪せているけど綺麗な形をした水色のノート。
俺と恋人が好きな水色。
俺に記憶がないものだから、きっと彼女のだ。
そう思って彼女の元へ持って行った。
「ねえねえ、このノートは君のであってる?」
何気なくそう伝えたけれど、そのノートを見た彼女の表情は固くて胸がチクリとした。
「あ、ありがとうございます」
どこか不安を隠したまま、ノートを受け取る。
そして寂しそうな目をしたまま、ノートを抱きしめた。
「大事なもの?」
すると首を横に振った。
「私には、もういらないもの……です」
ゆっくり俺を見つめると彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
「あなたがいてくれるなら、もう大丈夫なノートです」
その笑顔は晴れやか、とは言えないものだった。
安心を滲ませた表情でホッとしたけど、彼女を抱きしめたくなって強く抱き締める。
「うん。私、もう大丈夫」
その声に力強さを安心して、心の底から嬉しくなった。
おわり
六一二、閉ざされた日記
ビルの隙間から風がひとつ流れる。
ビュウと鳴りながら砂とホコリが飛びまくっていた。
「もお、木枯らしなんて通り過ぎたろー!」
ビルの谷間に虚しく響く俺の声だった。
おわり
六一一、木枯らし
ようやく伝えられたと言うか、もう逃れられないから彼女に伝えた自分の気持ち。
それを聞いてビックリした彼女表情は、見る見るうちに弾ける笑顔になった。
本当は少しだけ怖かったのに、その彼女の笑顔があまりにもキレイで。
元々彼女に心を奪われていたんだけど、さらに俺の心を捕らえていきました。
おわり
六一〇、美しい