瞳を閉じて浮かぶのは、彼の表情ばかり。
屈託のない笑顔は太陽のようで、私の心を簡単に奪っていく。
孤独だったあの時が嫌で、私はこの都市に辿り着いたの。だからいつか特別な人が出来たらいいなって思ったんだ。
あ、でも家族みたいに大切にしてくれる人たちには出会えたんだよ。本当に大切な人たちなんだ。
そんな人たちとは別に、心惹かれてしまうのは誰にでも優しいお医者さん。
お客さんから、本気で好きになっている人もいるっぽくて、なんとなくそんな噂を聞いて胸が苦しくなる。
でも、色んな女性から強引な誘いを受けて困っている姿を見たことがあった。
どうしたらいいんだろう。
私の気持ちを伝えたら迷惑になっちゃう……よね。
どうしよう。
この焔を消せそうにない。
おわり
五二九、消えない焔
瞳を閉じて浮かぶのは、あの子の表情ばかり。
自分の心にはブレーキをかけちゃうのに、あの子の弾けたような笑顔と可愛らしい声が響く。
特別な人を作りたくない。
そう思ってこの都市に来たのに、気がついたらあの子が忘れられない。
お世話になっている人たちも、友達も沢山増えた。
それでも、ひとりになった時にどうしても彼女が浮かんで胸が締め付けられる。
どうしたらいいんだろう。
俺はこの気持ちを、認めてもいいんだろうか。
おわり
五二八、終わらない問い
「どうでしょう?」
ハロウィン用のコスプレ衣装を身にまとった恋人が俺の前でクルンと一周回る。
ふわりと動く短いスカートが俺の目には眩しい。
「可愛いですか?」
「可愛いけれどスカート短過ぎ!」
「えー、可愛いじゃないですかー?」
「可愛いよ。可愛いけれど、素足にその短いスカートはダメー!」
そもそもとして色素の薄い彼女が、更に白をイメージした衣装。ふわっとした柔らかそうな布の短いスカートは俺にとっては大変目に潤いを与えてくれる。
彼女は再びクルンと一回りするとスカートと一緒に羽根も揺れる。
いや、この時期とはいえ、スカートは勿論だけれど根本的に露出高いんだよな。
幼さが残る顔なのに、プロポーションはとても良いからこんな格好したら他の男共の視線も集めちゃうじゃん。
「でもなんでハロウィンに天使なの?」
「え、みんなで可愛いからこれにしよって」
うっ。
〝みんなで〟と言われてしまうとダメと言いにくくなるじゃん。
「衣装は同じで色違いにして、他の部分はみんな変えているんです。羽根とか、靴とか」
楽しそうにそう言ってくれるんだけれど、俺としては許容しにくい。
「ダメですか?」
眉を八の字にして、悲しそうな表情で見上げる。
ズルいですよ、その顔は。
俺は両手を上げる。
「わかった。せめて素足はやめて。あとスパッツ履いて」
俺ができる最大の譲歩を提示する。
さて、ここから駆け引き開始だ。
おわり
五二七、揺れる羽根
俺は自分のズボンのポッケをさすると、ポッケの片隅にそっと入れてある秘密の箱。
と言っても俺にとっては秘密でもなんでもない。でも、かけがえのないほど大切なもの。
細かいことは事前に聞いていたから問題ないんだ。
色々と特別に話し合って依頼して、ようやく届いた特別なもの。
帰ったら恋人に渡そうと思っているけれど、喜んで……くれるよね?
彼女が受け取ってくれた時、どんな表情をするのか少し怖い。嫌な顔されたり、そもそも受けとってくれなかったらどうしよう。
少しだけ胸がドキドキして冷や汗が出るけど深呼吸して心をおちつけると静かな時間が流れた。
「ただいま帰りましたー!!」
玄関から愛しい彼女の声が響き渡る。
心臓が飛び出そうなほどびっくりしたけど、満面の笑顔で飛び込んでくる彼女に嬉しくて抱きしめてしまった。
「ふふふー」
「おかえり、お仕事お疲れ様」
ご機嫌な彼女。
さぁ、どのタイミングで彼女に秘密の箱を渡そうか。
おわり
五二六、秘密の箱
「無人島に行くならば、どうしたい?」
ソファに座りながら、そんな質問を恋人にしてみた。
彼女は人差し指を口元に当て、ふーむと視線を上に向ける。
少し口を尖らせているのが、とても可愛らしい。
でも少しだけ寂しそうな顔をして俺を見つめる。
「ひとりなら行くのヤです」
彼女は俺の正面に座ってゆっくりと首元に腕が絡まったかと思うと、きゅっと強く抱き締めてくれる。
「あなたと一緒がいい」
鼻が詰まったような声が、俺の耳元で囁かれた。
おわり
五二五、無人島に行くならば