私の瞳は恋人を捉える。
彼は病院のベッドで横になり足を吊っていた。
「お見舞いに来てくれてありがとう」
そんなことを言うけれど、私の表情が笑っていないことに気がついたみたい。
私は彼と恋人になってすぐに、彼の仕事の先輩からこっそり言われたことがある。
『彼はさ、人を助けるために自分が怪我をすることを厭わないんだよね』
それは自己犠牲という結論だと分かった。
彼の仕事は救急隊で、人を助けることが仕事。
困っている人がいるとつい声をかけてしまって、仕事じゃなくても助けてくれる人。だって私との出会いもそういう感じだもん。
優しくて、優しくて。
今回の怪我は彼の咄嗟の行動で救助しつつも自分が怪我をしたと聞いた。
それを聞いた瞬間に、彼の先輩の話を思い出して〝ああ、こういうことか〟と思ったの。
救急隊として、それじゃダメだとも……。
しばらくして彼がびっくりして慌てる。
「な、なんで!? どうして泣くの?」
私はぽろぽろとこぼれる涙を止めることもせずに頬をふくらませながら彼に訴えた。
「あなたが自分を大切にしてくれないからです」
お願い。
もっとあなた自身を大切にして。
おわり
四六〇、なぜ泣くの?と聞かれたから
少し涼しくなったと思ったら、また暑い日々が戻ってきて、夏が終わる気配が見当たらない。
外に出るたびに思うんだ。
首筋に汗が滝のように流れ落ちる。
正面から来るのは熱風で、高い湿度がベタベタしてウンザリしてしまう。
「もう少し早く秋の足音が聞こえてもいいと思うんだよなぁ」
汗を拭いながら、俺は太陽を見上げた。
おわり
四五九、足音
明日は彼の誕生日だ。
真夏に生まれた彼に、毎年彼をイメージしたクリームソーダを作るようにしている。
彼の大好物だから、最近はクリームソーダを作るための材料や器具も増えていて万全だ。
今年はどんな感じにしようかな。
彼のイメージ動物をアイスに見立てたり、イメージカラーの炭酸を作ったりと色々毎年工夫している。
今年は太陽をイメージしたくてバニラアイスはまん丸になるように練習した。もちろん練習したアイスは私がおいしくいただきました。
誕生日の当日、クリームソーダを飲む時は少しだけ温度を上げる。
飲んでいて寒くなるようなことにしたくない。
なによりこの季節を感じられる……とはいえ、暑すぎない程よい温度を探して準備オーケー!
今年は少し酸味のあるレモンの炭酸は黄色いソーダ。その上にちょっと濃いめのバニラアイス。
今年は酸っぱさと甘さのマリアージュ? それをめざしてみた。
暑い夏でも心地よく過ごしてくれたら良いな。
昔はもう秋に向かっていたみたいだけど、天気予報を見れば猛暑日が続いていて、夏はまだ終わりそうもない。
その中で毎年彼が喜んでくれることに頭を悩ませている私がいる。
これがとても楽しくて、なによりも誰よりも幸せだ。
おわり
四五八、終わらない夏
部屋から見上げる空は青くて、私と恋人の好きな色が視界いっぱいに広がっていた。
「いい天気だなぁ」
私が小さくこぼすと、それを聞いていた彼が同じような角度に見えるように近くに来て空を見上げていた。
「本当だね。ドライブでも行く?」
「行きたい!」
ぽつりと呟いた彼の言葉にめちゃくちゃ反応して振り返ってしまった。
だってデートになるもん。
それに青空は私と彼を結びつけてくれたものの一つが〝好きな色〟だから、こんな空色を前より好きになったの。
私はもう一度空を見上げる。
遠くまで見える夏らしい爽やかな青空はとてもキレイで、思わず見惚れてしまった。
おわり
四五七、遠くの空へ
好きって思う感情はようやく分かって。
ああ、恋に落ちたんだって理解したんだ。
俺自身はそんな気持ちを持つなんて思わなかった。
俺と彼女の縁ってほとんど偶然だから、会いたいけれど気軽に会えない。
客商売で、誰にでも屈託のない笑顔で対応するし、幼さが残るのに気遣いができて一緒にいると心地いい。
「会いたいなぁ」
小さくこぼす本当の気持ちと一緒に寂しさが溢れ出して止まらなかった。
「わ!」
「わー!!!」
背中に優しくなにかが当って弾かれる。ぼんやりとしていたから、心臓がとび出そうなほど驚いて振り返る。
そこには会いたいと願っていた彼女がいたから違う意味でも心臓が跳ねた。
「あはは、こんにちは!」
バックバックと心臓の音がうるさくて、笑顔だった彼女が怪訝な顔をする。
「ご、ごめんなさい。おどかしすぎましたか?」
「いや、本当にビックリしたけど大丈夫だよ」
彼女にも俺の鼓動が聞こえるんじゃないと思うほどバクバクしている。けど、彼女の顔を見ていたらさっきまでの寂しい気持ちが吹き飛んで、もっと違う暖かい感情が溢れ出していた。
「見かけたから声掛けちゃいました」
綿毛のような柔らかい髪の毛が揺れ、ふわりと微笑んだ彼女を見て更に気持ちがこぼれ出ていた。
自然と笑顔になる。
だって会えたんだもん。
「声掛けてくれて、嬉しいよ」
そう彼女に言うと、嬉しそうに笑ってくれた。
会いたかったんだ。
どうやって会おうか悩んでたんだ。
見かけたら声かけようと思ったんだ。
普段は声掛けてくれないの知っているから、彼女が声をかけてくれたのは驚き一緒に、色んな感情が溢れ出るのを止められなかった。
おわり
四五六、!マークじゃ足りない感情