とある恋人たちの日常。

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 私の瞳は恋人を捉える。
 彼は病院のベッドで横になり足を吊っていた。
 
「お見舞いに来てくれてありがとう」
 
 そんなことを言うけれど、私の表情が笑っていないことに気がついたみたい。
 
 私は彼と恋人になってすぐに、彼の仕事の先輩からこっそり言われたことがある。
 
『彼はさ、人を助けるために自分が怪我をすることを厭わないんだよね』
 
 それは自己犠牲という結論だと分かった。
 
 彼の仕事は救急隊で、人を助けることが仕事。
 困っている人がいるとつい声をかけてしまって、仕事じゃなくても助けてくれる人。だって私との出会いもそういう感じだもん。
 優しくて、優しくて。
 
 今回の怪我は彼の咄嗟の行動で救助しつつも自分が怪我をしたと聞いた。
 それを聞いた瞬間に、彼の先輩の話を思い出して〝ああ、こういうことか〟と思ったの。
 
 救急隊として、それじゃダメだとも……。
 
 しばらくして彼がびっくりして慌てる。
 
「な、なんで!? どうして泣くの?」
 
 私はぽろぽろとこぼれる涙を止めることもせずに頬をふくらませながら彼に訴えた。
 
「あなたが自分を大切にしてくれないからです」
 
 お願い。
 もっとあなた自身を大切にして。
 
 
 
おわり
 
 
 
四六〇、なぜ泣くの?と聞かれたから

8/19/2025, 12:35:38 PM