燦燦と降り注ぐ日差し。
だくだくと流れ落ちる汗。
ねえ、燦燦なんで可愛いものじゃないよ!!
暑いです、暑い!!!
人が生きていられる暑さじゃない!
俺は大きなため息を吐いた。
「ただいま、夏。なんて言ってられないよ……」
もうちょっと抑えてください、夏。
俺は肩を落として太陽を睨みつけた。
おわり
四四五、ただいま、夏
カラン……。
そんな音が鳴ったのはどれくらい前だったのか。
溶けきった氷と汗をかききったグラスがその時間を物語っている。
目の前にいる恋人は唇を尖らせ、眉間に皺を寄せながら俺を見つめていた。
視線が痛い。
彼女は俺の隣をちらりと見つめる。そこには松葉杖が二本立てかけられていた。
そうです、俺の足は包帯ぐるぐる巻きになっております。
あ、仕事で怪我したわけじゃないんです。
先日、俺の大好きなクリームソーダの新作が出ると聞きまして。喜び勇んで階段を駆け下りたところ、足を滑らせて転げ落ちました。
ええ、それは盛大に。
職場では「俺らしい」と爆笑の渦だったんだけれど、一緒に住んでいる彼女はそうはいかなかった。
「ごめんね、しばらく迷惑かけちゃって……」
そう言うと、キリッとした強い視線が俺を刺す。
「迷惑なんてかけられていません。不注意で怪我することに私怒っているんです!」
へ?
ああ、そっか。そうだった。
じわじわと暖かいものが心に広がっていく。
そうだ、そうだよ。
彼女が怒るのは、俺が俺を大事にしない時だった。
俺は彼女の手に自分の手を重ねると、潤んだ瞳が俺をしっかりと見つめてくれた。
「心配かけて、ごめん」
「本当です、落ち着いてください。罰として治るまでクリームソーダ出しませんからね」
柔らかく笑ってくれるけれど、ほんの少しだけイジワルな笑顔。
「そんなぁ!」
「慌てて怪我したんですからダメです。治ったら美味しいの作ってあげます」
軽くウィンクをしながら微笑む彼女を見て、もうしっかりと治さなきゃと俺は強く決意した。
彼女に心配させないためにも。
悲しませないためにも。
おわり
四四四、ぬるい炭酸と無口な君
想いを寄せてしまった彼女を、さり気なーく誘ってバイクで海に来ていた。
普段通りにしたつもりだったけれど、大丈夫だったかな。
自分としてはぎこちなさを隠しきれたか危ういとは思っているけれど、彼女の笑顔は変わらない。
ま、まあ。
彼女は分かっても分からないフリをしてくれる気遣い屋さんだから大丈夫だと思う。
日差しも眩しく、湿度も高くて、潮の香りも強い。
人もまあまあいるから、ふたりで来るにはチョイスは良くなかったかも。変に誤解されたら彼女に迷惑がかかってしまう。
胸がチクリとする。
俺の周りにはこの手の話が大好きで、勝手な思い込みで盛り上げたり茶化して来たりする。
なんというか。
彼女とはそんなふうになりたくなかった。
彼女は波打ち際に軽く走って向かった。
サンダルを履いていた彼女はそのまま足を水につける。
「あは、あったかい」
コロコロと笑う彼女が可愛くて、胸を締め付けた。
「温暖化の影響ですかね?」
「そうかもね」
ゆっくりと彼女の方に歩いて近づいていくと、軽く俺に水を弾いてかけてくる。
「反撃しちゃうぞ」
「あはは」
そう笑い、彼女は再び波打ち際で砂と海の水でパシャパシャ弾いて遊んでいる。
楽しそうにしている姿は俺の視線を捉えて離さない。
水が光に反射して、いつも以上にキラキラしているように思えた。
やっぱり、可愛いな。
俺は屈んで砂にふと思った気持ちを短い文字で描いた。
いつか伝えたい思ってしまった単純な言葉を。
「なにを書いてるんですかー?」
俺の書いた文字を覗き込もうと近づく。
その文字を彼女に見られるのは恥ずかしくて、消そうと思ったけれど、彼女が水遊びしながら歩いてきたことでその文字は波にさらわれてしまった。
「あー!!」
「残念!」
そう笑って返したけれど、見られなくてよかったと心の底では安心していた。
だって、こんな言葉を彼女に伝えたら困らせてしまう。
お客さんの中に本気で狙っているらしいという噂も聞くんだ。絶対に迷惑をかけちゃう。
言えないよ、〝好き〟だなんて。
おわり
四四三、波にさらわれた手紙
俺がこの都市に来て、もうどれくらい経つのかな。
誕生日の日に合わせて、ここに来た。
そうして俺は、俺の心を離さない特別な女性に出会ったんだ。
いつでも笑ってくれて、一緒にいて気持ちが落ち着いて、心が楽になる彼女。
守りたい人だったのに、いつの間にか隣に居たいと思ってしまった人。
八月。
もうすぐ俺の誕生日。
ここに来て、君と出会って心が変化した時。
ねえ。
俺、どうしようもないほど君に会いたいよ。
おわり
四四二、八月、君に会いたい
大好きな大好きな彼。
お医者さんだから誰にでも気遣いができて、優しいところがある。
でも誰にでも優し過ぎる人だから、他の人にも好意を持たれていたんじゃないかなって思った。
だから私の想いは心の奥にしまっておくことにしたの。
でも、彼は私を選んでくれた。
強ばった表情で想いを告げてくれて、とても嬉しかった。
私も――と、返した時に見せてくれた笑顔がとても眩しくて。
「あのね」
「うん」
「だいすき」
戸惑いから変わる彼の表情を見て改めて思ったの。
優しさや気遣いとは別に、私がどうしようもないほど惹かれた〝太陽のような笑顔〟が、そこにあった。
だいすき。
おわり
四四一、眩しくて