「ねえ、なにか私にお願い事はありませんか?」
突然恋人に言われた一言にびっくりしちゃった。けれど、今日は七夕だからそういうことかなと思い直す。
彼女は両手に拳を作って、ムンッと気合いを入れていた。
ああ、これは何がなんでも俺の願いを叶えようとするなあ。彼女はそういう子だ。
「うーん」
一緒に暮らして、彼女と沢山の時間を過ごしたから今パッと思いつかなかった……のだけれど。
俺は彼女の腰に腕を回して抱き寄せる。
「わわっ」
「俺の願い事は〜」
戸惑う彼女にドヤ顔で言った。
「これからも一緒の時間を過ごしてくれる?」
言われた言葉に、彼女はクエスチョンマークを飛ばした顔になっていた。
「それはお願い事になりませんよ?」
「え?」
「一緒にいるのは〝当たり前〟じゃないですか!」
首を傾けながら、きょとんとした顔で俺に返す。
彼女にとって、俺と一緒に過ごすことは当たり前だと言い切れる彼女の気持ちに胸が暖かくなった。
「じゃあ、今日の夕飯は手作りハンバーグ食べたいです」
「喜んで作ります!! ハンバーグはお願いに来ると思ったんで材料も買ってあります!」
一気に目がキラキラと輝く。クルクルと変わる彼女の表情が愛らしくて、彼女を抱きしめた。
びっくりしたのは分かったけれど、ゆっくり彼女も抱きしめ返してくれた。
――
本当はね。あるんだよ、お願いは。
〝いつか家族になってね〟
ってことだったんだけど。
これは自分の力で叶えるから、ね。
おわり
四一七、願い事
最近、同棲している恋人のお気に入りがあるみたい。お休みの日になると〝お願い〟される。
「ごめん。三十分くらい膝貸してもらってもいい?」
両手を合わせて〝お願い〟される。
私はそれが結構好きなのです。
彼のお気に入りは、お客さんからオススメされたアロマオイル。その中からマリン系の香りを彼が気に入ったみたいだから、アロマオイルを使えるセットを買った。
今暑いし、火を使いたくないからアロマストーンにした。これだと範囲も狭いし変に充満しないから。
あとは配信動画で真っ青な空とトロピカルミュージックを流す。これが落ち着くんだって。
冷房をあまり寒くしないように調整してからソファに座って彼に膝を貸す。
私の膝枕が心地いいって言ってくれて、休みの人少しの時間にリラックスタイムとして、最近過ごしている。
今日のお休み時間にも彼の頭を私の膝に頭を乗せて、リラックスして無防備になった寝顔が私の癒し時間。
青空と海の動画からはトロピカルミュージックで軽やかな心持ちになりながら、愛しい彼の見ていると私も癒される。
ああ、やっぱり彼が好き。
おわり
四一六、空恋
最近、俺の中で流行っているものがある。
休みの日にさざ波の音と共にトロピカルな音楽をかけて。
彼女が買ったマリンの香りがするアロマオイルをアロマストーンにたらして。
寒くなりすぎない気温に冷房を調節して。
彼女の膝枕で仮眠を取ることです!
彼女には迷惑だとは思うのだけれど、これが本当に心地よくてさ。
最初は十五分くらいだったんだけれど、彼女も俺を甘やかしてくれるから、一時間くらいまで延びてた。
でもさ。
波の音は耳が癒されるし、彼女を思い出す香りはリラックスできるし、外の暑さを調整しているから五感の全てが心地好すぎて今年の夏はコレをやめられそうにない。
彼女は俺を甘やかすのが嬉しいとは言ってくれるけれど、秋までこの調子だったらどうしようと、俺は少しだけ不安になった。
ごめんね。
でも、休みの日の癒しタイムだから許してください。
おわり
四一五、波音に耳を澄ませて
先日、彼女を抱きしめると、身体から香水じゃないけれど、マリン的な爽やかで甘さのある香りがしていた。
彼女のイメージは白なんだけれど、好きな色が青や水色だから、マリン的な香りは彼女にあっていていつも以上にドキドキしたんだ。
青い海の香り。それは夏の彼女の香り。
それ以降、その香りは彼女を思い出すから香りは記憶に残るとはよく言ったもんだなと思った。
――
家に帰っていつものハグをした後、服を着替えてリビングに足を向ける。
リビングに入ると、彼女を思い出す香りが鼻をくすぐった。
「あれ、この匂い?」
「あ、気が付きました?」
ふたり分の飲み物を持った彼女がソファに座る。そして飲み物を置いてから、ローテーブルに置いてある白い石みたいなものを指さした。
「この前の香り、気に入ってくれたみたいだから、アロマオイルを買ってみました」
ドヤ顔で話してくれる彼女がなんとも愛らしい。
「でも入ってすぐによく気が付きましたね?」
「え、香ったよ」
「アロマストーンってそんなに香りは広がらないんですけれど……」
君を思い出す香りだから、すぐ分かるんですなんて言えないな。でも、この場所からリビングの入口、そしてその先にあるものを見て分かった。
「ああ、クーラーの風に乗っているんだ。だからこの香りが迎えてくれたんだ」
彼女も納得した顔で微笑んでくれる。
マリンの香りの風。
俺の脳には彼女の香りだと刷り込まれてしまった。
おわり
四一四、青い風
雨の季節ってどこへ行ったんだろうね。
空を見上げたら曇りのない青が広がって、俺と恋人が好きな色が視界一帯に染まっている。
ああ。
こんな日は、彼女を連れて遠くへ行きたいなぁ。
おわり
四一三、遠くへ行きたい