とある恋人たちの日常。

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 先日、彼女を抱きしめると、身体から香水じゃないけれど、マリン的な爽やかで甘さのある香りがしていた。
 彼女のイメージは白なんだけれど、好きな色が青や水色だから、マリン的な香りは彼女にあっていていつも以上にドキドキしたんだ。
 
 青い海の香り。それは夏の彼女の香り。
 それ以降、その香りは彼女を思い出すから香りは記憶に残るとはよく言ったもんだなと思った。
 
 ――
 
 家に帰っていつものハグをした後、服を着替えてリビングに足を向ける。
 リビングに入ると、彼女を思い出す香りが鼻をくすぐった。
 
「あれ、この匂い?」
「あ、気が付きました?」
 
 ふたり分の飲み物を持った彼女がソファに座る。そして飲み物を置いてから、ローテーブルに置いてある白い石みたいなものを指さした。
 
「この前の香り、気に入ってくれたみたいだから、アロマオイルを買ってみました」
 
 ドヤ顔で話してくれる彼女がなんとも愛らしい。
 
「でも入ってすぐによく気が付きましたね?」
「え、香ったよ」
「アロマストーンってそんなに香りは広がらないんですけれど……」
 
 君を思い出す香りだから、すぐ分かるんですなんて言えないな。でも、この場所からリビングの入口、そしてその先にあるものを見て分かった。
 
「ああ、クーラーの風に乗っているんだ。だからこの香りが迎えてくれたんだ」
 
 彼女も納得した顔で微笑んでくれる。
 
 マリンの香りの風。
 俺の脳には彼女の香りだと刷り込まれてしまった。
 
 
 
おわり
 
 
 
四一四、青い風

7/4/2025, 1:06:46 PM