「ねえ、なにか私にお願い事はありませんか?」
突然恋人に言われた一言にびっくりしちゃった。けれど、今日は七夕だからそういうことかなと思い直す。
彼女は両手に拳を作って、ムンッと気合いを入れていた。
ああ、これは何がなんでも俺の願いを叶えようとするなあ。彼女はそういう子だ。
「うーん」
一緒に暮らして、彼女と沢山の時間を過ごしたから今パッと思いつかなかった……のだけれど。
俺は彼女の腰に腕を回して抱き寄せる。
「わわっ」
「俺の願い事は〜」
戸惑う彼女にドヤ顔で言った。
「これからも一緒の時間を過ごしてくれる?」
言われた言葉に、彼女はクエスチョンマークを飛ばした顔になっていた。
「それはお願い事になりませんよ?」
「え?」
「一緒にいるのは〝当たり前〟じゃないですか!」
首を傾けながら、きょとんとした顔で俺に返す。
彼女にとって、俺と一緒に過ごすことは当たり前だと言い切れる彼女の気持ちに胸が暖かくなった。
「じゃあ、今日の夕飯は手作りハンバーグ食べたいです」
「喜んで作ります!! ハンバーグはお願いに来ると思ったんで材料も買ってあります!」
一気に目がキラキラと輝く。クルクルと変わる彼女の表情が愛らしくて、彼女を抱きしめた。
びっくりしたのは分かったけれど、ゆっくり彼女も抱きしめ返してくれた。
――
本当はね。あるんだよ、お願いは。
〝いつか家族になってね〟
ってことだったんだけど。
これは自分の力で叶えるから、ね。
おわり
四一七、願い事
7/7/2025, 1:28:51 PM