とある恋人たちの日常。

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3/2/2025, 2:02:38 PM

 
 トントントン。
 
 私の心をノックする。
 真っ暗なところにドアを叩く音が響いていた。
 
 その音は優しくて心地いいから不思議に思ってしまう。
 
 
――
 
 
 この都市に来てから、色々な人と出会った。
 仕事が決まって、この仕事に楽しみを覚えて、人と交流が増えた。
 笑顔が増えた……気がする。
 
 うちの会社は、お客さん含めて何故か怪我人が多い。私自身も不幸体質なのか、巻き込まれ事故をもらうことが多くて病院に通っていた。
 
 その度に私の怪我を治してくれていた先生。
 困った時に優しくしてくれたのが、忘れられない。
 
 他にも優しくしてくれる人はいるのに、その人だけ少し違うの。
 
 車の修理に持ってきてくれて、少しづつ会話が増えてきた。
 
 好きなものを聞いてみると、同じことが多くて、また差し入れしてくれるって言ってくれた。
 
『困ったことがあったら言って、力になるよ』
『力になるよ』
 
 病院の先生だから、当たり前のように言う言葉。
 
 ……勘違いしちゃいそうだよ。
 
 
 自分の部屋に帰って、瞳を閉じる。
 深呼吸をして、静寂に身を任せると自分の心臓の音を感じた。
 
 その中に暖かいものがふわりと灯る。
 
 トントントン。
 
 私の心をノックする。
 心のドアを叩く音が響いていた。
 
 その音は優しくて心地いいの。
 
 ノックするのは誰?
 
 
 
 うそ。
 本当はあなただって分かってる。
 
 あなたは誰にも優しくて、みんなに笑顔だから、私を見てくれるなんて思っちゃだめだと分かっているの。
 
 でも、あなたが私の心の扉を叩くのを止めてくれない。
 
 
 
おわり
 
 
 
二九〇、誰かしら?

3/1/2025, 2:35:12 PM

 
 初めて出会った時は、困った患者さんだなって思った。
 
 彼女自身は不幸体質なのか、しょっちゅう怪我をして俺の患者さんになっていた。
 
 バイクが壊れた時、彼女の職場に行った。
 
「修理してくださーい!」
「はーい、あ!! いらっしゃいませー!」
 
 俺だと気がついた時、声のトーンが一段上がり笑顔が本当に嬉しそうな顔になった。
 
 今思うと、それが種だったのかもしれない。
 
「俺、水色が好きでさー」
「私もですー!!」
 
 こんな些細なことが水やりになる。
 
「クリームソーダ、大好きなの〜。新しいのあげるね」
「わ! 嬉しい、私も大好きなんです!」
 
 日を浴びて、芽吹いてくる。
 
 彼女との交流はどんよりした気持ちが、涼やかな風が吹いてくるみたいだったんだ。
 
 請求書に毎回書いてくれる、ささやかな一言。
 
 どんどん彼女への気持ちが芽吹いていくんだ。
 気がついちゃダメな気持ちの種が沢山撒かれて、沢山水やりしてもらって、沢山の太陽を浴びて、芽吹いていく。
 
 恋という種が。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八九、芽吹きのとき

2/28/2025, 1:07:18 PM

 
 だいすき。
 だいすき。
 だいすき。
 
 彼のことが大好きなの。
 
 暖かい温もりが私に触れてくれる。
 それが嬉しくて、たまらないの。
 
 私も彼に手を伸ばすと、その手を取って手のひらにキスしてくれた。
 
 初めて彼と肌を重ねた日。
 
 私は一生忘れることはできない。
 それほど幸せな時だった。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八八、あの日の温もり

2/27/2025, 1:10:38 PM

 
 ずるいんだよな、こういう時は。
 
 彼女が眉を八の字にして俺を見上げてくる。
 追い討ちに「ダメですか?」なんて言われて、ダメだなんて言えると思う?
 
 ちょっとした恋人のわがまま。
 
 普段はグッと我慢しているのに、今日はどうしても欲しいものがある。
 健康的な意味で不安があるからダメって言ったらこれだよ。
 
 余程欲しかったみたい。
 ピンポイントで今みたいな小悪魔っぽい表情と仕草をする。絶対に自分の可愛らしさを理解して言っているよね?
 
 やめてやめて、俺に効くから。
 
 顔で好きになったわけじゃない。彼女の行動と心に惚れてしまった。だから外見で、そんなふうに言ったって……。
 
 結論は最初から出ているけれど。
 普通はダメって言わなきゃダメなんだけれど。
 
「もう、今日だけだからね!!」
「やったー!!」
 
 パッと喜ぶ笑顔は誰よりも可愛くて、愛らしくて、愛おしくて。
 
 白旗です。
 可愛い君に勝てるわけない。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八七、cute!

2/26/2025, 1:02:15 PM

 
 日記を書くのは得意じゃない。
 三日坊主の私にはこういうのは向かないんだよね。
 
 スケジュール帳はあるけれど、そこにメモをしても出来事を書くことは殆どなかった。
 
 でもちょっとしたメモや、それに合わせてスマホに入っている写真を見ていると、彼と一緒に遊びに行ったことや、彼との出来事を思い出せる。
 
 小さなことだけれど、この記録は記憶を呼び覚ます大切な記録で、記憶を呼び覚ます糸口だ。
 
「今度、どこかにちゃんと保存しよう」
 
 できれば、ふたりで保存できる場所を作って、思い出を詰め込んでいきたい。
 
 私たちの大切な記録。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八六、記録

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