とある恋人たちの日常。

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 初めて出会った時は、困った患者さんだなって思った。
 
 彼女自身は不幸体質なのか、しょっちゅう怪我をして俺の患者さんになっていた。
 
 バイクが壊れた時、彼女の職場に行った。
 
「修理してくださーい!」
「はーい、あ!! いらっしゃいませー!」
 
 俺だと気がついた時、声のトーンが一段上がり笑顔が本当に嬉しそうな顔になった。
 
 今思うと、それが種だったのかもしれない。
 
「俺、水色が好きでさー」
「私もですー!!」
 
 こんな些細なことが水やりになる。
 
「クリームソーダ、大好きなの〜。新しいのあげるね」
「わ! 嬉しい、私も大好きなんです!」
 
 日を浴びて、芽吹いてくる。
 
 彼女との交流はどんよりした気持ちが、涼やかな風が吹いてくるみたいだったんだ。
 
 請求書に毎回書いてくれる、ささやかな一言。
 
 どんどん彼女への気持ちが芽吹いていくんだ。
 気がついちゃダメな気持ちの種が沢山撒かれて、沢山水やりしてもらって、沢山の太陽を浴びて、芽吹いていく。
 
 恋という種が。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八九、芽吹きのとき

3/1/2025, 2:35:12 PM