とある恋人たちの日常。

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 トントントン。
 
 私の心をノックする。
 真っ暗なところにドアを叩く音が響いていた。
 
 その音は優しくて心地いいから不思議に思ってしまう。
 
 
――
 
 
 この都市に来てから、色々な人と出会った。
 仕事が決まって、この仕事に楽しみを覚えて、人と交流が増えた。
 笑顔が増えた……気がする。
 
 うちの会社は、お客さん含めて何故か怪我人が多い。私自身も不幸体質なのか、巻き込まれ事故をもらうことが多くて病院に通っていた。
 
 その度に私の怪我を治してくれていた先生。
 困った時に優しくしてくれたのが、忘れられない。
 
 他にも優しくしてくれる人はいるのに、その人だけ少し違うの。
 
 車の修理に持ってきてくれて、少しづつ会話が増えてきた。
 
 好きなものを聞いてみると、同じことが多くて、また差し入れしてくれるって言ってくれた。
 
『困ったことがあったら言って、力になるよ』
『力になるよ』
 
 病院の先生だから、当たり前のように言う言葉。
 
 ……勘違いしちゃいそうだよ。
 
 
 自分の部屋に帰って、瞳を閉じる。
 深呼吸をして、静寂に身を任せると自分の心臓の音を感じた。
 
 その中に暖かいものがふわりと灯る。
 
 トントントン。
 
 私の心をノックする。
 心のドアを叩く音が響いていた。
 
 その音は優しくて心地いいの。
 
 ノックするのは誰?
 
 
 
 うそ。
 本当はあなただって分かってる。
 
 あなたは誰にも優しくて、みんなに笑顔だから、私を見てくれるなんて思っちゃだめだと分かっているの。
 
 でも、あなたが私の心の扉を叩くのを止めてくれない。
 
 
 
おわり
 
 
 
二九〇、誰かしら?

3/2/2025, 2:02:38 PM