ずるいんだよな、こういう時は。
彼女が眉を八の字にして俺を見上げてくる。
追い討ちに「ダメですか?」なんて言われて、ダメだなんて言えると思う?
ちょっとした恋人のわがまま。
普段はグッと我慢しているのに、今日はどうしても欲しいものがある。
健康的な意味で不安があるからダメって言ったらこれだよ。
余程欲しかったみたい。
ピンポイントで今みたいな小悪魔っぽい表情と仕草をする。絶対に自分の可愛らしさを理解して言っているよね?
やめてやめて、俺に効くから。
顔で好きになったわけじゃない。彼女の行動と心に惚れてしまった。だから外見で、そんなふうに言ったって……。
結論は最初から出ているけれど。
普通はダメって言わなきゃダメなんだけれど。
「もう、今日だけだからね!!」
「やったー!!」
パッと喜ぶ笑顔は誰よりも可愛くて、愛らしくて、愛おしくて。
白旗です。
可愛い君に勝てるわけない。
おわり
二八七、cute!
日記を書くのは得意じゃない。
三日坊主の私にはこういうのは向かないんだよね。
スケジュール帳はあるけれど、そこにメモをしても出来事を書くことは殆どなかった。
でもちょっとしたメモや、それに合わせてスマホに入っている写真を見ていると、彼と一緒に遊びに行ったことや、彼との出来事を思い出せる。
小さなことだけれど、この記録は記憶を呼び覚ます大切な記録で、記憶を呼び覚ます糸口だ。
「今度、どこかにちゃんと保存しよう」
できれば、ふたりで保存できる場所を作って、思い出を詰め込んでいきたい。
私たちの大切な記録。
おわり
二八六、記録
今日は彼女とふたりで謎解きゲームに行くことにした。
以前、ふたりで謎解きに行ったことがあるんだけど、申し訳ない記憶がある。今回はそういう記憶を払拭したくて改めて彼女を誘った。
とは言え、俺は謎解き得意じゃない。
逆に彼女はふわふわした柔らかい印象があり、末っ子気質。そんなふうに見えるけれど、実は頭の回転が早い。つまり彼女の方が謎解きが出来るんだよな。
まあ、あの頃とは違って変な緊張はしていないし、リラックスして挑めると思う。
どんな謎解きが来るのかワクワクしてくる。
「行こうか」
「はい!!」
彼女に手を差し伸べると、しっかり俺の手を取ってくれた。
さぁ、行こう!
どんな謎解きが待っているか楽しみで、高揚感が奥から溢れる。
すると繋いだ手に力が込められて、彼女に視線を送ると挑戦的な目で俺を見てこう言った。
「冒険、ですね!」
おわり
二八五、さぁ冒険だ
特に意味なんてないんだけれど、仕事で行った時に視界に入ってから気になってしまった。
「いらっしゃいませー」
足を入れたのは花屋さん。
店員さんは笑顔で俺に声をかけてくれる。
何が欲しいとか……全く頭になかったんだけれど、なにかしたいと思ったんだ。
一緒に住んでいる恋人に、いつもそばにいて俺を支えてくれる彼女に何か贈りたかった。
ホワイトデーに用意してもいいんだけど、それとは別に。
凹んだ俺に寄り添ってくれる彼女に〝ありがとう〟を伝えたいんだ。
花束だとびっくりしちゃうかな?
いきなりだと邪推する? しないか。でも心配しそうだな。何かあるんじゃないかって。
そんなに大袈裟じゃなくて、でも感謝と、彼女への想いを伝えられるような……。
すると花屋の店長さんが俺に声をかけた。
彼女は俺の恋人と旧知の仲で、俺より好みを知っているかな。出会いと付き合いは花屋の店長さんのほうが長いし。
「あ、いや。彼女に感謝の花を贈りたくて……。でも大袈裟じゃなくてフランクに渡せそうなやつがあれば……」
すると花屋の店長さんは少し考えてから、一輪の花を俺に向けた。それは白いバラの花。
「これなんてどうでしょう。花束だとびっくりしちゃうから一輪で。白は彼女のイメージカラーも合うから良いかなと……」
バラは沢山あるとゴージャスで色々凄い感じがあるけれど、一輪だと凛とした感じになるし、彼女には合うかも!
「それ! それでお願いします!」
「はーい、リボンは水色にしますね」
「あ、助かります」
さすがは友人だけあって、彼女の好きな色を把握してくれていた。
程よい長さにカットされた一輪の白いバラは、それだけで彼女を思い出せそうだった。
理由なんてないんだ。
ただ、彼女に普段からそばにいてくれるお礼がしたいんだ。
言ってくれた通りに透明なフィルムに包まれふわりと水色のリボンで飾られたバラを渡される。
代金を支払って車に乗る。
いつものお礼って言っちゃうと、変に気にしそうだから、なにか別の話を考えなきゃ。
それでも彼女が喜んでくれたらいいなと車を走らせた。
おわり
二八四、一輪の花
この都市に来た時、私は誰かを好きになるなんて思わなかった。誰かを好きになっても、相手が私を好きになってくれるなんて思わないじゃない。
そんな深く話してないの。
でも好きなものが近くて、気がついてないものも気がついてくれて、優しくしてくれた。
笑って声をかけてくれるのが嬉しくて、その笑顔に胸がドキドキして、彼への気持ちに気がついた。
だいすき。
彼が他の女の人と一緒にいると、ズキッとして胸が痛い。
そんな彼に手を伸ばしてもらった。
私を選んでもらえた。
彼の暖かい胸の中におさめられた時は幸せで仕方がなかった。
だいすき。
「君と気持ちが一緒で嬉しい」
そう、彼に言われた。
私もそう思う。
「俺は君の魔法にかかったの」
「私は魔法使えませんよ?」
「でも、俺は君にとらわれてる」
そう言われて、私もそうかもと笑ってしまう。
「なら私もあなたの魔法にとらわれてます」
視線が絡み合い、お互いに自然と笑みがこぼれた。
「大好き」
「大好きだよ」
おわり
二八三、魔法