とある恋人たちの日常。

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 特に意味なんてないんだけれど、仕事で行った時に視界に入ってから気になってしまった。
 
「いらっしゃいませー」
 
 足を入れたのは花屋さん。
 店員さんは笑顔で俺に声をかけてくれる。
 
 何が欲しいとか……全く頭になかったんだけれど、なにかしたいと思ったんだ。
 
 一緒に住んでいる恋人に、いつもそばにいて俺を支えてくれる彼女に何か贈りたかった。
 
 ホワイトデーに用意してもいいんだけど、それとは別に。
 凹んだ俺に寄り添ってくれる彼女に〝ありがとう〟を伝えたいんだ。
 
 花束だとびっくりしちゃうかな?
 いきなりだと邪推する? しないか。でも心配しそうだな。何かあるんじゃないかって。
 
 そんなに大袈裟じゃなくて、でも感謝と、彼女への想いを伝えられるような……。
 
 すると花屋の店長さんが俺に声をかけた。
 彼女は俺の恋人と旧知の仲で、俺より好みを知っているかな。出会いと付き合いは花屋の店長さんのほうが長いし。
 
「あ、いや。彼女に感謝の花を贈りたくて……。でも大袈裟じゃなくてフランクに渡せそうなやつがあれば……」
 
 すると花屋の店長さんは少し考えてから、一輪の花を俺に向けた。それは白いバラの花。
 
「これなんてどうでしょう。花束だとびっくりしちゃうから一輪で。白は彼女のイメージカラーも合うから良いかなと……」
 
 バラは沢山あるとゴージャスで色々凄い感じがあるけれど、一輪だと凛とした感じになるし、彼女には合うかも!
 
「それ! それでお願いします!」
「はーい、リボンは水色にしますね」
「あ、助かります」
 
 さすがは友人だけあって、彼女の好きな色を把握してくれていた。
 
 程よい長さにカットされた一輪の白いバラは、それだけで彼女を思い出せそうだった。
 
 理由なんてないんだ。
 ただ、彼女に普段からそばにいてくれるお礼がしたいんだ。
 
 言ってくれた通りに透明なフィルムに包まれふわりと水色のリボンで飾られたバラを渡される。
 
 代金を支払って車に乗る。
 
 いつものお礼って言っちゃうと、変に気にしそうだから、なにか別の話を考えなきゃ。
 
 それでも彼女が喜んでくれたらいいなと車を走らせた。
 
 
 
おわり
 
 
 
二八四、一輪の花

2/24/2025, 1:07:57 PM