とある恋人たちの日常。

Open App
11/8/2024, 12:32:07 PM

 
 今日は都市を巡回しようと、バイクに乗って恋人の勤める修理屋を通ると、聞き慣れた声が耳に入った。
 俺はバイクを見て、点検をお願いしようとお店に入った。
 
「いらっしゃいー」
 
 彼女ではない別の男性社員さんが担当してくれることになった。
 彼女じゃないことは残念だけれど、他のお客さんの迷惑になるのも嫌だから、そのままお願いする。
 
 彼女が俺に気がついて、軽く手を振ってくれるから、俺も返した。
 
 どうやら今日は社長が居ない上に、出勤している人が多いのか、彼女はみんなのフォローに回っていた。
 
 彼女と出会ったばかりの頃は頼りなくて不安も多かった。そこから頑張って、今ではみんなをフォローする側だ。
 
 すると彼女は少し奥に入って、修理に使う素材を確認し作っていく。
 
「これあんまり使わないでしょ。作っても意味なくないですか?」
 
 別の社員が彼女にそういうと、彼女は笑みを向けて返した。
 
「意味がないことなんて、ないですよー! いつ、どんな時に何が必要になるか分からないですし、足りなくなったらお客さんに迷惑かけちゃうから」
 
 そう言いながら、彼女は足りない素材を作っていく。足りるもの、足りないものを確認しつつ、手際よく作業を進めていく。その表情は楽しそうに見えるし、それ以上に頼もしく見えて、俺にはそんな彼女が誇らしかった。
 
「はい、終わりました」
 
 請求書をもらい、支払いを済ませる。店を出る前に彼女の近くにバイクを移動させて、彼女のそばに行く。俺の様子に気がついた彼女は手を止めて振り返った。
 
「格好いいよ」
「へ?」
 
 俺の突然の言葉に目をまん丸にさせる。少し考えてから、ふにゃりとした俺の知っている可愛い笑顔を見せてくれた。
 
「へへ、嬉しいです」
 
 うん、誰よりも格好いいよ。
 
 
 
おわり
 
 
 
一七六、意味がないこと

11/7/2024, 11:45:30 AM

 
 先日、恋人の彼と一緒に結婚式にお呼ばれした。
 この都市に来て、誰よりも尊敬している人が幸せそうな笑顔を見られて、何よりも嬉しくなった。
 
 大きな花束を花瓶に収めて居間のテーブルに置く。凛と咲く大輪のカサブランカの花束。これは、花嫁が私たちにこっそりと渡してくれたブーケ。
 
 私はあの日にこっそりと彼が言ってくれた言葉を思い出す。
 
『こんどは、おれたちのばん』
 
 ブーケを見て、私の口角が上がる。
 
 次は、あなたとわたしで。
 
 
 
おわり
 
 
 
一七五、あなたとわたし

11/6/2024, 12:01:28 PM

 
 外を覗くと雨が降ってきた。
 雨というか霧雨みたい。
 強い雨でもないけれど、傘も役に立ちそうにない細かい雨だった。
 
 雨が降ると、事故が増えて怪我人も増えるって恋人が言っていた。そうなると車修理の仕事も増えるのかなー。
 
 この時間はちょうどワンオペだから誰もいなくて、会社も静かで、雨の静かな音が響き渡る。
 
 この都市には知り合いの人が沢山いる。大好きな彼も。みんな事故も怪我もないといい。
 
 柔らかい雨だけれど、早くやんでほしいな。
 
 
 
おわり
 
 
 
柔らかい雨

11/5/2024, 12:55:39 PM

 
 彼女の修理屋にカスタムの依頼をしていたのに、俺の失敗で動けなくなった。
 もう、バカ過ぎて情けなくなる。
 
 動けるようになるまで少し時間がかかるから、俺は諦めて動けるようになるまで待つことにした。
 
 そんな中、この場所を伝えていなかったのに、彼女が出張修理に来てくれた。
 
 失敗の悔しさ、彼女を待たせてしまう申し訳なさでモヤモヤしている時に、笑顔の彼女が来てくれた瞬間、一筋の光が見えた気がしたんだ。
 その時が夜だったこともあったから余計にそう思ったかもしれないけれど。
 
 それからかも。
 彼女に嫌われたくない、もう少しそばにいたいって気持ちが傾いたのは。
 
 あの日、君は俺の心を捉えたんだよ。
 
 
 
おわり
 
 
 
一七三、一筋の光

11/4/2024, 12:17:19 PM

 
 時々、知り合いから子供を預かるんだけれど、子供の世話がとても楽しくて、「預かれる?」と聞かれると、余程じゃない限りは預からせてもらうことにしている。
 
 もう一つの理由は、まあ、お互い先を見据えているからというのもあるんだけれどね。
 
 何度かお世話させてもらっている赤ちゃんを預かった。少しずつ俺たちのことも慣れてきたみたいで、今まで以上に笑顔が多かった。
 
 だからこそさ、お別れが寂しいんだよね。
 
 両親がお出迎えしてくれて、満面の笑みでバイバイしてくれる。
 彼女も笑顔で手を振っているけれど、俺は分かるよ。君をずっと見ているから。
 
 楽しそうな笑顔を向けているけれど、その背中はとても寂しそうだった。
 
 俺は彼女の手を取ると、彼女が驚いてこっちを見てくれる。俺はゆっくりと瞬きをひつとすると、彼女の気持ちを理解しているのが伝わったようで、くしゃりと表情を歪ませて俺に抱きついた。
 
 いつか。
 いつか、俺たちの天使を迎えようね。
 
 
 
おわり
 
 
 
一七二、哀愁を誘う

Next