今日は都市を巡回しようと、バイクに乗って恋人の勤める修理屋を通ると、聞き慣れた声が耳に入った。
俺はバイクを見て、点検をお願いしようとお店に入った。
「いらっしゃいー」
彼女ではない別の男性社員さんが担当してくれることになった。
彼女じゃないことは残念だけれど、他のお客さんの迷惑になるのも嫌だから、そのままお願いする。
彼女が俺に気がついて、軽く手を振ってくれるから、俺も返した。
どうやら今日は社長が居ない上に、出勤している人が多いのか、彼女はみんなのフォローに回っていた。
彼女と出会ったばかりの頃は頼りなくて不安も多かった。そこから頑張って、今ではみんなをフォローする側だ。
すると彼女は少し奥に入って、修理に使う素材を確認し作っていく。
「これあんまり使わないでしょ。作っても意味なくないですか?」
別の社員が彼女にそういうと、彼女は笑みを向けて返した。
「意味がないことなんて、ないですよー! いつ、どんな時に何が必要になるか分からないですし、足りなくなったらお客さんに迷惑かけちゃうから」
そう言いながら、彼女は足りない素材を作っていく。足りるもの、足りないものを確認しつつ、手際よく作業を進めていく。その表情は楽しそうに見えるし、それ以上に頼もしく見えて、俺にはそんな彼女が誇らしかった。
「はい、終わりました」
請求書をもらい、支払いを済ませる。店を出る前に彼女の近くにバイクを移動させて、彼女のそばに行く。俺の様子に気がついた彼女は手を止めて振り返った。
「格好いいよ」
「へ?」
俺の突然の言葉に目をまん丸にさせる。少し考えてから、ふにゃりとした俺の知っている可愛い笑顔を見せてくれた。
「へへ、嬉しいです」
うん、誰よりも格好いいよ。
おわり
一七六、意味がないこと
11/8/2024, 12:32:07 PM