「わ! 綺麗ですね!」
青年が家に持ってきたのは一輪の硝子の花。
きらきらとして、光に反射してとても美しい。
「綺麗だよね。持って帰ってくるの大変だったー」
デパートで見つけた硝子細工。
その色合いが、以前彼女に贈ったネックレスの石に近くて、目を惹いたのだ。
土台のしっかりしたグラスに差して食卓に飾ると、恋人は硝子の花と同じくらい、きらきらした瞳でその花を見つめる。
硝子の花は自分たちが好きな水色の艶やかな花だった。
茎も丁寧で、花弁は細かく繊細に造られていて、変にぶつけたら簡単に壊れそうだった。
「今日だけここに飾って、明日はケースに入れて飾ろう」
「はい!」
そんなことを言いつつも、綺麗な月夜には出して見るのもいいかもしれない。
そうやって、ひとつひとつ彼女との思い出が増えるんだな。
青年はくすりと笑った。
おわり
お題:繊細な花
「どうしたの?」
「はい?」
「ぼんやりしてる」
「あ、ああ……」
思い出してしまった子供の頃のこと。
思い出したくないこと。
色々と考えていたら、ぼうっとしてしまった。
「えと……」
「うん?」
きょとんと恋人が見つめてくる。
過去のことは、なんとも伝えにくい。
だから伝えた。
「私、ここに来て良かった」
今度は驚いた表情を向けてくる彼。
その言葉の意味はきっと伝わらないと思う。でも、満面の笑みを向けてくれた。
ああ、無邪気なこの笑顔が本当に好き。
「俺もだよ。出会えて良かった」
迷わず正面から抱きしめてくれる。
「一年後どころか、これからもずっと、よろしくね!」
「ふふ、そうですね!」
でも、一年後か……。
確信がある。
ちらりと彼を見上げた。
彼といれば、しあわせだ。
おわり
お題:一年後
子供の頃のことは、あまり思い出したくない。
愛されなかったわけではないけれど、大人になるにつれて一人になり、どんどん居場所が無くなった。
だから、あの未来から逃げた。
逃げた先で、出会った人たち。
会社も、他でもかけがえのない出会いがあった。
なにより、彼と出会えた。
だから、しあわせな今がある。
「わたし、ここに来て本当に良かった」
おわり
お題:子供の頃は
今日も仕事が終わって、帰路につく。
ゆるい時はゆるいが、仕事本番は近著感が増す。それが救急隊の仕事だ。
今日も大変だった。
充実もしてるけれど、悩みだってある。
それが職場の日常だ。
さて、今日はどっちが先かな。
自宅からは、恋人の職場の方が近い。だけど盛り上がると帰りが遅くなるから、どちらが先に帰るか半々だった。
家に着くと、鍵を開けて、玄関の扉を開く。奥からいい香りがした。
今日は彼女の方が先に帰ったみたいだ。
奥の方から走ってくる足音。
「おかえりなさい〜」
その言葉と共に、飛びついてきてくれる彼女。俺も迷わずに抱きしめ返す。
「ただいま〜!!」
仕事で疲れていたけれど、これが心地よい。
「お仕事、お疲れ様です!」
「うん、君もお疲れ様!」
お互いを労る言葉から〝家の時間〟が始まる。
これが、俺の家の日常。
おわり
お題:日常
一緒に暮らすようになって、初めて迎える新しい季節に合わせた買い物をしようと休みを合わせた。
「やっぱり、夏に向けて冷感の寝具が欲しいですね〜」
「そうだね。せっかくなら足りない物を一通り揃えよう!」
「はい!!」
嬉しそうに微笑む恋人は、ぱたぱたと走ってくるりと振り返る。
「危ないよ、周り見てね」
「うふふ、はーい」
青年も軽く走り、楽しそうにしている恋人の手を握る。
「つかまえた」
「ふふ、つかまっちゃいましたね」
青年もつられて笑顔になった。
「まずは寝具」
「うん!」
ふたりで寝具コーナーに向かうと、色とりどりの寝具が並んでいた。
「どの色がいい?」
青年は挑戦的に彼女に微笑む。
その挑戦を受けるように、彼女も微笑んだ。
「もちろん……」
「「水色!!」」
声が重なった。
クリームソーダだけじゃなく、ふたりを近づけたきっかけのひとつは、好きな色が同じだったこと。
青年は、恋人がどう答えるか分かっていて聞いた。もちろん、彼女もその事を分かって答えた。
ふたりの部屋は、白を基調にしつつも水色をメインにしたものなのだから。
おわり
お題:好きな色