月影

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5/16/2025, 11:00:41 AM

空っぽになった鳥籠を手に飛び去る蒼鳥を僕は見送る。これで何羽目だろう、色とりどりの鳥を手放したのは。愛着が無くなったわけではない、要らなくなったわけでもない、もう二度、この手に入らない事は知っている。手放したのは、幸せに出来る自信がないから。鳥達にはどうか幸せになって欲しいから。朽ち欠けた己の手に視線を落とす、漸く、あと一羽だけが残っている。
僕はそっと鳥籠に手を伸ばす。
「僕の時間の中にいてくれてありがとう」
手放す、勇気を振り絞って鳥籠を持ち上げた。

5/15/2025, 11:37:14 AM

光がなくなった。暗闇が全てを奪った。
あの光は僕の全てだった。やっと手に入れた、漸く叶ったというに、何故こうもあっさりと。
残ったのは、言いしれぬ絶望と暗闇だけ。
僕は地面に両膝をつき、叫んだ。絶え間なく叫び続けた。声を枯らし、声が出なくなるまで、無様にも叫んだ。だが、何も変わらない。明日さえ見えない、何処までも、何も見えない。僕の声は無惨な空気になっただけだった。

5/14/2025, 11:06:01 AM

夕日色が私の酸素の色だった。誰もいない教室が好きだった。家以外で落ち着く場所。窓から夕日色の空を見る。夜の気配が仄かにし、幾重の雲は流れ、薄い三日月と目が合った。朝昼の喧騒が嘘のよう、何処かに止まっているのだろう、蜩の儚げな鳴き声が耳朶を満たしていた。

5/13/2025, 10:38:25 AM

記憶の中はいつも海だ。果てしなく続き終わりがない。聞こえてくるさざ波は貴方の泣き声のよう。

明くる日も忘れられない、貴方と見た海を。季節は私を置き去りにし、時間は私を通り過ぎ、風でさえ私に触れない。触れてくれるのは貴方と海だけ…。
 
隣りに居た貴方の影が、私の影と重なり、臨む先の海は悲しげに映る。それでも、私はその海を美しいと思う。貴方がいた過去(海)がとても美しい。私はそっと手を伸ばした。微かに滲んで見える貴方の影に手を…。

5/13/2025, 8:36:05 AM

ただ君だけに一輪の花を渡した。
見えない雨に打たれながら、今日も花を渡した。
忘れない。記憶の中の君も、今の君も、明日もまた会いに行く。君の好きだった花を携えて。

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