ひらり、と白いものが私の手を離れて中空を舞う。
中空を舞っていたそれは、目標を外れ床に着地した。
「鼻をかんだティッシュくらい、投げずにゴミ箱に捨てなさい!」
母の怒声が響く。
花粉症なんて大嫌いだ。
朝、教室に一歩足を踏み入れても、誰からも声をかかられることもない。
一年以上続いているので、もう慣れっこだがさすがにこう毎日だとメンタルに響く。
自分の席につき、鞄を下ろす。
教科書とノート、そしてタブレットを机にしまおうとすると、何やら手に触れた。
取り出してみると、何の変哲もない封筒で、封はされていない。
一体、誰かしら? こんな酔狂な真似をしてくるのは。
中に入っている便箋を開いてみると、ぐちゃぐちゃな筆致でこれ以上ない罵詈雑言が書かれていた。
まあ、予想通りだ。
私は無言で便箋を封筒に戻すと、そのまま教室隅に置かれているゴミ箱へと放り込んだ。
すべてを失った自分をあたたかく迎え入れてくれた人。
その人を失いたくはなかった。
失ったら最後、自分をこの世に繋ぎ止めるモノが無くなってしまうとわかっていたから。
だから、あの人のためならば、自分はどうなってもいい。
そんな思いを抱いて、今まで生きていた。
剣を取り、無数の命を屠ってきたのも、すべてあの人のため。
それなのに、あの人はそんな自分を見て、いつもかなしげな表情を浮かべている。
どうして?
自分は、どこで間違ってしまったのだろう。
自分は、どこであの日の温もりを手放してしまったのだろう。
わからない。
けれど、戻ることのないあの日の温もりを抱いて、自分は今日も……。
「So, cute!」
夢の国という遊園地の中で、観光客と思しき外国人が、ネズミのカチューシャをつけた私を見てそう言った。
確かに155cmにも満たない小柄な私は、彼らから見たらかわいらしい存在なのかもしれない。
加えて東洋人は彼らからは若く見えるという。
けれど、私は何を隠そう昭和の生まれ。
これだけは隠しようのない事実である。
記憶は消えてしまうけれど、記録は永遠なのだろうか?
いや、データは劣化していつかは消えてしまうことがあるから、永遠に残るものなんて無いのかもしれない。