君と見た虹は、どこまでも果てしなく遠くまで続いていた。
「さあ、行こう」
君は、こちらに向けて手を差し出す。
ためらいながらそれを取ると、君は虹の上に足を踏み出した。
「怖がらないで。大丈夫」
笑いながら、君は言う。
引っ張られるように、虹の上に立つ。
数歩歩いてみても、それは崩れる気配などない。
どれくらい歩いただろうか、おっかなびっくり見下ろしてみる。
と、足元には自分が暮らしている街が広がっている。
これは一体、どういうことなんだろう。
疑問に思った途端虹の橋は霧散し、君の姿も見えなくなった。
落ちていく感覚に思わず悲鳴を上げる。
気がついた自分の体は、無数の管に繋がれていた。
「先生! 患者が意識を取り戻しました!」
そんな声が、耳に飛び込んできた。
年に一度、夜空を駆けるのが仕事のあの人の年収は、一体どのくらいなのだろうか。
危険手当、深夜勤務手当なども含めると、相当のものなのだろうことは、想像に固くない。
ずっとあなたを想ってきました。
届かないかもしれないけれど、想っていました。
私のひそかな想いに気づかなくても構わない。
でも、あなたを想うことを許してください。
あなたは誰?
それを見た時、私は心の中でそうつぶやいた。
どす黒い肌、度の強い眼鏡をかけた不細工な上に人相の悪い女性がこちらを睨みつけている。
「では、ご本人確認のため少しマスクをずらしてください」
係員にそう言われ、私はマスクを外した。
と、アクリル板を隔てて目の前に立つその人は、私の顔と新しく発行された私のマイナンバーカードを見比べる。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
どうやら私の顔は、この不細工で人相の悪い、なんなら少しくたびれた感じのする女性と同じらしい。
写真映りが悪いなんてもんじゃない、これが真実なんだ。
新しいカードを受け取って、私はがっくりしながら帰途についた。
清水の舞台から飛び降りるつもりで、推しの作家にファンレターを書いた。
まず、思いの丈をまとめ、下書きを書いた。
不自然なところがないかどうか何度も読み返し、推しのイメージの便箋に清書した。
そこまでして、はたと気がつく。
果たして宛先は何処にすればいいのだろうか。
色々と調べたら、本を出している出版社の編集部に宛てて出せば転送してくれるらしいことがわかった。
そこで、推しの本の出版社の住所を書き、編集気付〇〇先生、と宛名を書き、散々ためらった末ポストに投函した。
それから手紙の行方はわからない。
宛どころ不明出返送されてこないところをみると、出版社までは届いたんだろう。
けれど、そこから先推しの手に渡っているかどうかはわからない。
昨今郵便料金も値上がっていることだし、下手をすれば編集部止まりになっているかもしれない。
でも、それでもいい。
文章のプロに、あんな稚拙な文章を見られるのは恥ずかしいことこの上ないからだ。