家に帰ると玄関の鍵が開いていた。
不審に思いながらも扉を開けると、廊下にぽつんと置かれた手紙を見つけた。
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あなたにとってはただの友人でしょうが、僕はあなたに友人以上の想いを抱いていました。
初めて会った時からずっと、快活に笑うあなたの笑顔に惹かれていたのです。
あなたは僕が潰れそうになると決まって
「なにしけたツラしてんの!気張りな!」
ともやもやを吹っ飛ばすかの如く元気づけてくれます。
…でもあなたは僕だけを見てくれるわけではなかった。
同じようにあなたに恋慕、憧れを抱いている人はたくさんいた。
じゃああなたが僕だけに視線を向けてくれるにはどうしたらいいのか。
その答えがこれでした。
ありがとう、ごめんね。
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リビングの扉を開けると、変わり果てた君がいた。
231208 ありがとう、ごめんね
部屋の片隅で脱ぎ捨てられた靴下を見つけた。
いつもならあなたが
「もう!なんで脱ぎっぱなしにするの!」
なんて怒りながらも洗濯をしてくれるのに、今は…。
あなたと別れてから生活のほぼ全てがあなたに染まっていたことに気がついた。
そして、与えずに与えられてばかりだったことにも気がついた。
「疲れてるね。ごはん作ったから食べて?」
「…そっか。食べられそうな時食べてね。」
「どうしたの?仕事で嫌なことあった?」
「…そうだよね。私に言っても意味ないもんね。ごめん。」
今更もう一度やり直したいなんてわがままなこと言わない。
あなたをちゃんと大事にしてくれる人が隣にいるべきだから。俺なんかじゃなく…。
これまで一緒にいてくれてありがとう。
どうかあなたが、ずっとしあわせでありますように。
231207 部屋の片隅で
「逆さま言葉で話すゲームしよ?」
と君が言ったから、
「…大っ嫌い。」
と返したら、
泣きそうなのに嬉しそうななんとも言えない顔をした。
ごめん。
口下手だからこんなゲームの時じゃないと気持ちが伝えられない自分に嫌気がさす。
「ゲームやめ。」
「ちゃんと伝えさせて。」
「…大好きだよ。」
君は驚いて、そして花が咲くように笑った。
「っ!わたしも!!」
231206 逆さま
「どうした?なんかあった?」
「…最近寝不足なだけだよ。」
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久々に会えたあなたにクマが存在している原因を知りたいと疑問を投げかけたのだが、苦笑いとともに誤魔化すようそう伝えられる。
…付き合っている俺には知られたくない原因なのだろう。
ねぇ。
眠れないほどあなたを縛っているものってなに?
そういえば昨日は最近職場に入ってきた後輩とご飯を食べに行ったんだっけ?
たしかその後輩、学生時代の後輩でもあるんだよね?
ねぇ。
そいつ、もしかしてあなたが前話してくれた元彼の…って奴?
矢継ぎ早に質問してしまいそうになるのをぐっと堪える。
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「寝不足か。眠れないほどの悩みの原因がはやくいなくなればいいね。」
231205 眠れないほど
…この状況は、なんだ?
頭痛と戦いながら昨日のできごとを思い浮かべる。
仕事帰りにばったり中学の同級生と出会う。
「あれ?もしかして…」なんて声をかけてくれたあなた。
…俺が密かにずっと大好きだったあなた。
まさか覚えててくれたなんて。
まさか声をかけてくれるなんて。
どちらからともなく「立ち話もなんだから」と居酒屋へ向かったことは覚えている。
そしてこれは予想だが、きっと緊張していた俺はいつもよりハイスピードでお酒を飲んだことだろう。
でなければ記憶が無くなるまで飲むなんてこと、ありえない。
でなければ俺の部屋に、俺のベッドに今あなたが寝ているなんて、ありえない。
…夢と現実、できたら前者であってくれ。
231204 夢と現実