しがみつく紫陽花

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6/11/2024, 5:09:46 PM

春は、あなたの季節でした。

長く柔らかい髪を揺らして桜並木を歩くあなたを見て、腕を掴んでしまったことを覚えていますか?
攫われてしまいそうだと思ったんです。あなたが
あんまりにも美しかったから。
桜には目もくれず、団子や唐揚げを頬張る貴方の写真は、今でも私のスマホの待ち受けです。


夏も、あなたの季節でした。

太陽にも負けない笑顔で海をバックに笑うあなたを見て、眩しくって 思わず目を逸らしてしまいました。次の日、風邪をひいて夏祭りにいけなかったあなたがあんまりにもいじけるものだから、2人で手持ち花火をしましたね。
実は、線香花火はわざと落としてあげたんですよ。本気でやれば負けません。


秋だって、あなたの季節でした。

紅葉に負けないほど赤く色づくあなたの頬があんまりにも可愛らしくって、ついからかいすぎてしまい、私の頬にも紅葉が咲いたこと、一生忘れないです。
本を読もうとしてもすぐ寝てしまうあなた 趣味は合わないのに、どうしてなんでしょうね。…


冬は、やっぱりあなたの季節でした。

雪の中ではしゃぎ回って転んだあなた。私、注意しましたよね。雪国生まれの人間の言うことをちゃんと聞いてください。 まあ、でも、子供のように喜ぶあなたは愛おしかったです。
結局その後風邪をひいて、看病してあげたこと 身に刻んでください。




書き出して 消化しようとしてみましたが、やっぱりダメみたいです。懐かしさと恋しさが倍増しただけでした。

ねえ、春夏秋冬 なにをしてもあなたとの思い出が付き纏って、鬱陶しくて、恋しくて仕方がないです。
だから、どうか救ってはくれませんか。
あなたがいないと、死んでいるようなものなんです 私。

楽しそうに私の髪を結うあなたとか、寝起きでぐずるあなたとか、雷に 怖がりながらも少しテンションが高くなるあなたとか、そういうのがないと さみしいんです。
あなたの代わりだなんて、見つかる気がしません。生まれた時からずっと、あなたが特別なんです。

どうか、どんな姿形でもいいので、どうか。あなたが生きて どうか

5/23/2024, 11:35:01 AM

『ひどいひと』

なにも知らないわたくしを、名も語らぬ旅人様は救ってくださいました。人の愛し方、花の名、四季を慈しむ心、字の読み書きまでもを教えてくださりました。
そうして旅人様に色々なことを教わり、四季を二度終え、…愛していたのです。貴方様が教えてくださった心で、貴方様のことを、どうしようもなく。

ですが、旅人様は、貴方様は、ころっと消えてしまいました。 なにも言わずともわかります。 
ええ、きっと、また旅に出たのです。 
貴方様は、そういうお方です。こんな貧相な村に留まっておらず、いろいろな、美しく眩しい外の世界を駆け回り きっとどこかで、また私のような生き物を救うのです。

ええ、ええ、旅人様には きっと…このような村は似合わない、わたくしのような 人間とも言えない醜い生物は釣り合わないと わかっていたのです。ええ、存じておりました。
わたくしは、ただただ貴方様の幸せを願い、四季を繰り返し生涯を終えようと思っておりました。

…ですが、どうしようもなく 願ってしまうのです。 貴方様に名を教わった花を見るたび、四季が巡るたび、人と接するたびに、貴方様の顔を、声を、思い浮かべてしまうのです。
そうして、願ってしまう。どうか戻ってきてはくれないか、また愛を教えてくれないかと。

結局のところ、わたくしはどうしようもなく貪欲で醜い生き物なのです。貴方様のような清らかで心洗われるお方に少し教えを乞うたくらいでは、生まれ変われなどしないのです。

あゝ なにを見ても、なにをしても、貴方様の笑顔が心を焼くのです。もう一度、救ってはくれないのですか。 桜が散るたび、夏が香るたび、木々が頬を染めるたび、人が恋しくなるたび、貴方様の救いから逃れられないことを思い知らされてしまいます。

...毎晩、夢に見るのです。旅人様が、心身ともに傷つき 暗く深い絶望の中で 最後にわたくしを求めてくださる夢を。...どうか、こんなわたくしめをもう一度救ってくださいませ。


ああ、こうして2度と訪れない救いに焦がれ 生涯を終えるとき、私は気づいたのです。あれは、救いなどではなく、呪いだったのです。
幸せを知らずに生涯を終えるよりも、一度 何事にも変えられない幸せを得てから、同じ暮らしに戻る方が、何倍も苦しいのです。


存じておられました?酷いおひと

4/30/2024, 2:56:31 PM

きみは 可愛らしくて、やさしくって、天使のようなひとだったから。
口に含んだら、ふわふわでやわらかくって、お砂糖みたいなあまい味がするんだろうなあって ずっと思っていたんだけど。

きみも、人間だったんだなあ

4/10/2024, 1:05:12 PM

貴方が泥酔をし家に来て、抱きついてきた時に香る、鼻に残る甘ったるい香りが嫌いだった。
男絡みの愚痴を吐く貴方は面倒くさかったし、少しムカムカした。

最近は家に来なくなったな、と思っていたら どうやら事故に巻き込まれたらしい。
もう愚痴を聞く必要がないと思うと開放感があったが、やっぱり 少しムカムカした。

そうして、いつもと変わらない毎日を過ごして、
貴方が家に来なくなってだいぶ経って、ふと 前に語っていた 貴方のつけていた香水を買い、手首に一プッシュしてみたら ほのかに甘く爽やかないい香りがして、不器用な人だな、と思った。

2/26/2024, 12:19:27 PM

「春の暖かい陽の光にだけ照らされてきたような、そんなひと きっと誰にだって勿体無いわ」

もちろん、私にだって。君は僕に背を向け、キャンドルに火を灯しながらそう言った。
「まあ僕としては、君が叶わない相手を想い続けてるおかげでこんな時間を過ごせているって思うと、感謝をしなくてはいけないかな。」

まあ、そろそろ僕に振り向いてくれたっていいけれどね。 聞こえる程度に声を抑えてもらした本音に返事はなかった。 
代わりに、君はくるっと振り返り、立て続けに言葉を発した。

「ねえ、あのひとの見る夢は、きっと世界で一番色鮮やかで美しいんでしょうね」

「あのひとの目を通して見たら、きっとこんな世界だって素晴らしいものに映るはずよ」

「明けない夜なんてないって、泣いている私にあの人は言ってくれたの。だから、きっと、もうすぐ朝が来るんだわ!それを私、待っているの。」

君はそれだけ言って、ベッドに潜り込み そのままころっと寝てしまった。


「明けない夜がきたっていいと、僕は思うよ。」

ふぅっとキャンドルの火を消して、僕もベッドに横になった。

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