誰かのためになるならば僕は何でもするのかと聞かれた。
誰かのためって何だ?
例えば僕が誰か特定の人のために行動すれば、
それはその人のためになったことになる?
僕が無意識に行ったことが
僕の知らない誰かのためになることを指すのだろうか。
じゃあもしも、
僕がペーパーナイフをたまたま購入して
たまたま僕にひったくり犯が襲いかかってきて
たまたま持っていたペーパーナイフで抵抗しようとして
たまたまひったくり犯がそれを奪うことができて
たまたまそれが僕の目にのめり込んで
たまたまひったくり犯が逃走することができたら
それは彼のためになるのだろうか。
だとしたら僕は彼に貢献したことになるというわけか。
でも彼はそれに対して、
たまたま彼のポッケに入っていたカッターで
たまたまそれに手が届いた僕に
たまたま逃走経路に先回りしていた僕に
たまたま胸にカッターを押し込まれて
たまたまそれが胸に入ってしまった彼は
たまたま膝を地につけるしかなくなったのだからそれはつまり、、、、
彼は僕に貢献した。
ということは僕らは誰かのために行動したと。
そういうことになるのか。
それが誰かのためにということか。
何だ簡単。
僕ってば天災。
完全に理解したわ。
鳥かごがある。
いや、あるのだろう。
右手の感覚を頼りに真っ暗な世界の輪郭をたどる。
ひんやりとしたものが指に触れる。
上へ指をすべらせる。
真っ直ぐだった輪郭が曲線を描き出す。
左手でも触れてみる。
両手を下から上へすべらせる。
曲線を描き終わったところで右手と左手がぶつかった。
やはりこれは鳥かごだろうか。
鳥のさえずりなど聞こえはしなかったが。
だとしたらこれはただのかごだなぁ。
残念。
つまらないことに時間を使ってしまったな〜。
かごを抱いて水浸しの地面に倒れ込み、触れてみる。
冷たくはない。
生ぬるい。
かごに絡みついていた腕を解く。
かごを押しのけて体を起こす。
瞼を上げ、かごの方を見る。
そっちは毒々しい闇が広がっているだけだった。
鳥は入っていたのかなぁ。
仕方がない、確かめに行くか。
あのかごに扉なんかなかったように思えた。
もし入っていたとして
それはもう腐り、骨になり、隙間からこぼれ落ちているだろうが。
少し前まで昨日よりも明るいところを求めていたのに
今の僕にはどちらへ行けば明るいのかもわからない。
だから今日も好奇心に身をゆだねる。
友情が沈んでゆく。
折りたたんでいる指を開けばまだ届く。
腕を伸ばせばまだ届く。
肩の関節を外せばまだ届く。
ふと考えた。
友情というのは肩の関節を外してまで掴みたいか?
むしろ面倒なだけではないか?
右手から友情がまた一つこぼれた。
こぼれるほどあるのだ。
左手にはまだ友情が4つほど残っている。
うん、4つもあれば十分だろう。
むしろ1つで十分な気もするが。
ストックしておいて損はないだろうし。
右手の友情を右手ごと沈めた。
奇麗な奇麗な泡があがった。
花咲いて
気づけば君は
崩れ行く
花咲いて
気づけば僕は
墜ちてゆく
誰も僕らを見ていない
このまま墜ちて
君のもとへ
なんて言いはしない
手を差し伸べることもしない
君の服が破れようが
擦り傷だらけになろうが僕はかまわないからさ
さぁ、這ってでもここへ来なよ
君は助けたら怒るだろう?
『偽善者やろう』って
そうだよ、問題ある?
でもほんとは助けてほしいんでしょ?
ひねくれた僕にかまってる暇があったら
叫べよ
深海まで届くくらいの大声でさ
『正気かクソ野郎』って
もしもタイムマシンがあったなら、
僕はそれを壊すだろう。
僕以外の視界に入る前に破壊する。
そんなものは必要ないからだ。
過去を見てくる?
過去を変える?
未来を見てくる?
未来を変える?
見てきてどうする。
変えてどうする。
変わるのはただの記録だ。
僕はいい人ではないし、
天邪鬼かもしれない。
人と同じことをするのは好きじゃない。
だからこんな言葉をぐだぐだと並べているのだろうか。
本当は変えたい記録も、
見たい記録も、
あったかもしれない。
でも別に変えようが見ようが今の自分は変わらない。
今生きているのは僕だ。
僕が生きているのは今だ。
過去も未来も関係ない。
今僕の後ろにある未完成のタイムマシンは、
僕が完成させ、
その瞬間に僕が破壊するのだろう。
タイムマシンの有無も、
過去も未来も、
どうだっていい。
僕はいつ死んだってかまわない。
そういうふうに
過去のことも、
未来のことも、
そう深く考えずにふらふら生きている。
そんな僕にタイムマシンは必要ない。
タイムマシンをつくっているのはただの暇つぶしだ。
そして自分の命をあまり大切に意識できていない僕は、
今日も明日も生きなければならないのだろう。
それが僕が生まれてきた意味で
神様にできる唯一の感謝だろう。