私の「追い風」という話に登場する人々は主人公に限らずどの人たちの生き方も尊いものだと思います。
もちろん皆さんのこれまでもこれからも。
生きづらい世界だけど、それでも頑張って生きているあなたを応援しています。
「追い風」
私の生きたい方向は向かい風。
最初は皆も向かい風に立ち向かっていた。
でもひとりまたひとりと去り始め、別の方向へと歩み始める。
ある人は進んできた方向に背を向け、向かい風は追い風となって彼らの背中を後押しした。
私が向かい風の中、一歩を進んでいる間に彼らは追い風に乗って、あっという間に私からでは見えないくらい遠いところまで行ってしまう。
そんな彼らの進んだ方向から楽しそうな笑い声が聞こえてくると私も追い風に乗ってそちらへ行ってしまいたい気持ちになったけれど、彼らのいる方向は今まで私がいた方向で私の今までの軌跡が無になってしまうと思うと向かい風に背を向けることはできなかった。
またある人は別の道を探すため、風に少しずつ流されながら、または少しだけ抗いながら、風の流れに対して斜めに進んでいった。
彼らは思ったように行かないことが多かったけど、たまに私の行きたい方向へと繋がる追い風を見つけて私よりも先に行ってしまった。
そんな彼らの進んだ方向から幸せそうな笑い声が聞こえてくると私も近道を探してより早く楽に目的地に着きたい気持ちになったけれど、ここを離れて彼らの進んだ近道を見つけてももうすでに風の流れが変わってしまっているかもしれないし、もしかしたらスタート地点よりも後ろになってしまうかもしれないと思うと別の近道を探すことはできなかった。
進んでいる気がしない。
ちっとも近くならない。
憧れの世界はずっと先。
かすかに見えてるけど。
消えてなくなりそうだ。
そんな状況が辛くて、向かい風を追い風にしようと試みたけど、神様じゃないから、世界の中心じゃないから、私が周囲の環境を変えることはできなかった。
一緒に向かい風へと立ち向かう者は本当に少なくなってしまった。
私がこの道を進み続けたら。
いつか私だけになってしまうのかな。
その懸念を晴らすため、数少ない仲間と共に励まし合い、助け合いながら進んだが、この道を進む辛さを分かち合った仲間だからこそ別の道に進むと言われると、祝福こそすれ引き留めることはできなかった。
別の道を進む前に彼らは私に聞いた。
「どうしてそんなにもそちらの方向へ行きたいのですか?」
「なぜこんなにも辛い道をめげずに諦めずに歩めるのですか?」
私たちはそんな熱い情熱や強い志を持っているあなたが羨ましい、とそう言われた。
羨ましいのは私の方だ、と思う。
もはやここまで来て別の道で幸せになれる未来が見えない。
熱い情熱とか、強い志とか、とんでもない。
ただの意地だ。
どうしてこの道を進んだのか、何がきっかけだったか、もう思い出せない。
違う道を歩んだ彼らは今何しているのかな。
幸せになれたのかな。
幸せだといいな。
私も幸せになりたい。
「おひさしぶりです」
と後ろから声が聞こえて振り向くと、少し離れたところから見覚えのある顔が見えた。
「別の道を探すって言って追い風に乗って出て行った…」
「そうなんですけど、いろいろあってまた目指したくなって」
「いろいろって?」
「いろいろって言っても別に明確な何かがあったわけではないけど、あそこを目指していた時が一番生き生きしていたと思えたんです」
彼が追い風に乗って別の道を進んでいる間も、私は向かい風の中でも前に進み続けてきた。
でも彼は別の世界からまた私たちに追いついた。
この辛い道に戻ってきてくれて嬉しいと思うと同時にずっと頑張ってきた努力が簡単に追い越せるものだと知って辛く苦しかった。
私はずっと間違っていたのかな?
この道を行くのは間違いだったのかな?
もうここがゴールでいいんじゃないかと思えてくる。
生きている時間のほとんどを費やした。
報われるには、もう十分。
強く、追い風が吹いた。
ぐんぐんと近くなる目的地。
ようやくたどり着いた境地。
仲間たちと肩を組み、喜びを分かち合う。
感動で涙が止まらなくなって視界が霞む。
私たちは手を繋いで憧れの地に大きな一歩を踏み出した。
ここでの幸せな日々の中で気づいたんだ。
ここがゴールじゃないって。
まだこの先も新しい世界が広がっていて生きている限り終わらない。
でも、怖くはないよ。
これだけ長い間強い向かい風に耐え、進み続けられたんだから、きっと今ならどんなことでも乗り越えられる気がする。
「君と一緒に」
私は恋がわからない。
だけど、ふと君のことを思い出す。
君が一緒にいたら、と思う瞬間がある。
これが恋なのかな。
「冬晴れ」
ネックウォーマー、帽子、手袋、ゴーグル。
あっ、順番間違えた。
先に手袋を着けちゃうと、細かい指の動きが難しくて何もできなくなっちゃうんだった。
ゴーグル、手袋。
「準備できたー?」
「うん。今、行く」
今日は初めて友達とスキーをするんだ。
昨日は楽しみすぎて寝れなかった。
「お待たせ。ウェア、めっちゃかっこいい」
「そう?ありがとう」
スキーのウェアって何でこんなにおしゃれに着こなせるの。
普段もボーイッシュなイケメンだけど、今日はいつも以上にきらきらしていて、眩しくて見れない。
「行こっか」
何回かリフトを乗り換えて頂上まで行く。
危ないけどちょっと後ろを振り返ってみた。
こんなに高い場所まで来たんだって分かってちょっと嬉しくなる。
夏はこういうところを歩きで登ってるわけだから、リフトのありがたみが分かって少し感動するのだ。
その間友達は危ないよ、と注意しつつ、私の体を支えてくれた。
中身もイケメンすぎないか…?
セーフティーバーを上げ、頂上に降り立つ。
頂上の景色は今までで一番だった。
私たちの周りをぐるっと囲み連なる山々のてっぺんが白く染まっていて、雲一つない澄み渡る濃い青空とスキー場の白い雪が綺麗に一つにまとまっている。
太陽は優しく大地を照らし、雪は光を反射して宝石のようにキラキラと輝いていた。
「今日は焼けそうだね」
「こんだけ晴れてたらね。雪焼けしちゃう」
日焼け止め塗り忘れたから後で塗らなきゃ。
そう思いつつ、眩しいのでゴーグルを被る。
「あっ、ねぇ。下の方に小さく赤い屋根が見えるよ」
「あそこがセンターハウスか。遠いね」
「今、頂上だから」
「そうだ、写真撮ろうよ」
あの時撮った写真はちゃんと残ってるけど。
写真を撮らなくても、もうこの冬晴れは目に焼き付いちゃっていつまでも離れないよ。
(雪目になっちゃった)
途中書きです。すみません。
私は今までハッピーエンドになりきれない子たちの物語を書くことが多かったように思います。
不幸な境遇は共感や想像がしやすく書きやすいけど、幸せのカタチは一人ひとり違うから私が描いたゴールで満足できる人もいれば、納得できない人もいると思うと輪郭を描くのが難しいです。
それでも、この子(登場人物)にとって何が幸せなのかを聞き取って一緒に叶えたい。
私が描く誰かのストーリーがいつか誰かの心の一部となりますように。
「幸せとは」
途中書きです。すみません。
テーマの「日の出」って初日の出のことだと思うんですけど、冬山登山はしたことがないので初日の出じゃなくて日の出を書きます。
「日の出」
ここ、どこだっけ?
普段より低い天井。
辺りはまだ真っ暗。
「日の出、見に行くよ」
そうか、山小屋だ。
一泊二日の山行で。
今日は二日目の朝。
「私、行かない」
アウトドア好きの父は小さい頃からいろいろな場所に連れて行ってくれた。
その中でも特に登山の割合が大きく、星空や日の出は何回も見てきた。
星空は季節や時間帯、天候によって見えるものが変わってくるし、一番良かったときはたくさん見えすぎて、もはやどこに何の星座があるのかわからないくらい眩しくて綺麗だ。
でも日の出は毎回同じに見える。
天候が雨だともちろん見えないけど、晴れと曇りはそう変わらない。
だんだんと東の方から虹みたいに空の色が暗い色から明るい色へ変わり、その後太陽が雲海や山の向こう側からじわじわと出てくる。
場所は違うし景色も違うけど、太陽は同じ。
太陽が出てくるまでにも時間がかかるし、太陽が完全に姿を現すまではその間ずっと太陽を見つめているせいでとても長く感じる。
しかも太陽は直接見てはいけないのだ。
日の出はもう十分見たから、今はまだ寝ていたい。
私が断ると父はちょっとしゅんとしたように悲しげに笑いながら「まあ、そう言わず」と言った。
私は父のしゅんとした態度に弱く、今回も「んー、じゃあ見に行く」と折れた。
前日にある程度準備してあったので、ヘッドランプをつけて、靴下を履いたら完了だ。
周りのまだ寝ている人たちを起こさないように静かに移動し、山靴の紐をきつく結ぶ。
外はやっぱりまだ真っ暗だったからヘッドランプを一番明るい光にする。
頬を撫でる空気が冷たい。
地上は猛暑日が続いているのに、ここは秋とか冬くらいの寒さだ。
「山頂まで行くんだよね?」
「そうだよ」
この山小屋は9合目くらいだから、山頂までは少しある。
山頂までは昨日1回登ったから道はしっかりと覚えていた。
「ガスってるから日の出は見えないんじゃない?」
「でも今日は曇り後晴れ予報だし、ちょうど日の出の時間帯に晴れそうなんだよ」
会話しつつ歩き続け、山頂に着いた。
曇りにも関わらず、山頂にはすでに多くの人が日の出を今か今かと待っていた。
曇ってるせいで視界が悪いけど、風の流れが速く、時々雲が流れ去って空が見える。
これは日の出、見れるかも。
でも予想とは違い、完全に晴れきらずに少し晴れては曇ることを繰り返した。
そろそろ日の出の時間帯だけど、と父は少し残念な様子で言う。
あー、こりゃあ見えないね、と周りの登山者も諦めたように言った。
ちょうどその時だった。
「あ、見えた」
霧が晴れて太陽が山の向こう側から現れる。