「はなればなれ」
私、ハワイに転校する。
何かの冗談かと思った。
春休みのこと。
中高一貫校の私は中学を卒業して、高校入学のための準備を整えていた。
といっても、中高一貫校なので中学の卒業式はあっさりとしたものだったし、高校も通うところは変わらないのでそんなに準備するものもない。
中学と大きく変わるのは、高校が義務教育じゃないことと単位制になることくらいだ。
高校に入学したら、勉強が忙しくなるから、なかなか遊べないかもと思って、勉強もほどほどにふたりの友達を家に招いてお泊まり会をすることになった。
ゲームで遊んだり、お菓子パーティーをしたり、楽しいとどんどん時間が過ぎていく。
あっという間に夜になった。
私がお風呂からあがると、母と私の友達で何やら盛り上がっていた。
「何の話ー?」と聞くと、母が「さーちゃん、転校するんだって」と言った。
転校?そんな話一言も聞いてないけど…
「どこに転校するの?」
「ハワイ」
あれ、言ってなかったっけ?、と小声で呟いて、さーちゃんは耳に髪を掛けた。
中高一貫校だから高校一緒だと思ってたのにとか、日本飛び越えてハワイなのとか、どうして違う高校行くのとか、聞きたいことはたくさんあったけど、私が最初に口に出した言葉は違った。
「なんでもっと早く教えないのー!」
「ごめん、ごめん。もう言ったと思ってて」
「聞いてないわー!」
全然知らなかった。
ずっと一緒だと思ってた。
いつかは違う道を進むんだとしても、お別れが早すぎるよ。
その日はなかなか寝れなかった。
高校入学式。
さーちゃんはハワイの高校入学の9月に合わせて、一学期までは今まで通り同じ学校に通うことになった。
毎日一緒に登校する、この時間は当たり前じゃなかったんだな、と気付かされる。
1秒でもずっと長く一緒にいたい。
たくさん思い出を作りたい。
私のことを忘れないでほしい。
私は絶対忘れないよ。
こんなに切実なのには理由がある。
様々な理由の兼ね合いで、私はスマホを持っていなかった。
連絡手段の一切を絶たれている私にできることは今を大切にすることだけだった。
さーちゃんにはたくさんの友達がいる。
その友達の間でさーちゃんにサプライズで、送別会を開こうということになった。
皆でさーちゃんの送別会用のプレゼントを考えて数人で買いに行ってくれた。
他のメンバーは部屋を調べて確保したり、装飾品を買ったりと皆で分担した。
私は色紙を買って皆に配ってそれを貼るのがお仕事。
さーちゃん、喜んでくれるといいな。
送別会当日。
皆それぞれお菓子を持ち寄って借りた部屋に集合する。
さーちゃんには私たちの集合時間よりも遅めに伝えてあって、このメンバーの中の数人だけがさーちゃんと遊ぶ約束をしている。
今日こんなにたくさんの友達が集まっているのも内緒なのだ。
さーちゃん、びっくりするだろうな。
さーちゃんを迎えに誘った数人が外へ出る。
私たちは部屋に残ったメンバーは来る時を今か今かと待ち構えてうずうずしていた。
誰かが隠れて驚かそうと言った。
皆、その意見に賛成して椅子の後ろやカーテンの裏に隠れてじっと待つ。
外から足音が聞こえてくるたび、来たんじゃないかと身を硬くする。
ようやくガチャと音が鳴って扉が開いた。
友達が今日は部屋を借りてみたんだよね〜、と話しながら電気をつける。
それを合図に私たちはわっと前に現れた。
さーちゃんは予想通り目を丸くした。
サプライズの送別会だと言うと、まだ何が何だかという顔をしつつも喜んでくれた。
送別会用のプレゼントと色紙を渡す。
さーちゃんは嬉しそうにも少し寂しそうにも感動したようにも見える涙を流して微笑んだ。
それから私たちはお菓子を食べたり、テレビでYouTubeを見たり、写真を撮ったり、ゲームをしたり。
コロナで修学旅行に行けなかった私にとってこの日は最高の思い出になった。
さーちゃんがハワイに行く日は夏休みの途中で、その日たまたま私は学校で学園祭の準備をしなければならなかった。
空港までは見送れないからせめてさーちゃんの家まで行って「またね」って言いたくて、私は朝早くに家を出た。
約束の時間に間に合う電車を逃した。
もう一本後のは降りた後に走ればギリギリ間に合うかもしれない電車だった。
私がその電車に乗ると偶然、予定があって送別会に参加できなかった友達がいた。
その友達も学校で学園祭準備があったらしいけど、私の話を聞くやいなや学校に遅刻してでも一緒行くと言った。
友達と走った。
けど、さーちゃんはいなかった。
もともとさーちゃんのことを見送りたいと言ったのは私なのに来なかった私をさーちゃんはどう思っただろうか。
ごめんね、と友達に謝り学校に向かう。
この日から私は遅刻をしなくなった。
夏休みが終わり、2学期がやってきた。
さーちゃんはもう日本にはいないのに、ついつい探してしまう。
私を守ってくれて、助けてくれて、励ましてくれてたさーちゃんがそばにいなくても、自分で頑張らなくちゃと前を向く。
ハワイで頑張ってるさーちゃんに負けないぐらい頑張って驚かせてみせる。
といっても、全てが順調に行くはずもなく、学園祭でクラスメイトと大喧嘩して一番端の1組までその噂を轟かせたり、小テストで赤点スレスレを取って先生に呆れられたりしていたわけだけど。
それでも激動の2学期がもうすぐ終わる。
期末テストの最終日。
長かったテストが終わり、やっと解放されたと喜んでいたときだった。
急に友達が走ってきて、「さーちゃんがいる」って言って私の腕を引っ張った。
私は半信半疑で友達の後ろをついていくと、髪の毛を染めてよりかっこよくなったさーちゃんがいた。
聞きたいことはたくさんあったけど、私が最初に口に出した言葉は違った。
「だから、なんでそういう大事なこと、早く教えないのー!」
「ごめん、ごめん。驚かせようと思って。大成功!」
「大成功じゃないよ、もう」
3年間は日本に帰ってこないんじゃないかと思ってた。
ハワイに行ってから連絡ができない私はさーちゃんと疎遠になってしまって、学校で嬉しいことがあっても、つらいことがあっても伝えられなくて寂しかった。
だからさーちゃんに抱きついたときちょっとだけ涙が出そうになって慌てて唇を噛んだ。
「おかえり、さーちゃん」
「ただいま」
さーちゃんはその後も休みのたびに飛んで帰ってきた。
送別会の私の涙を返して、と言いたくなるくらい帰ってきてくれた。
どんなに離れていても私たちはずっと友達。
はなればなれ、なんて私たちの前では霧散する。
お金が貯まったら今度は私が会いに行くね。
途中書きです。すみません。
「子猫」
毒舌子猫。
私がそう心の中で呼んでいる友達の話にしようかな、と思ってます。
変えるかもしれませんが…
途中書きです。すみません。
「秋風」
学園祭、体育祭、修学旅行。
秋風が吹く頃にはこうしたイベントも過ぎ去って、少し寂しさを感じる。
今年ももうすぐで終わり。
時が経つのは早いなあ。
途中書きです。すみません。
初恋の話です。
「また会いましょう」
「また会いましょう」の「また」はない。
今度は二度と来ない。
あなたは私にとってライバルだった。
あなたも私も得意科目は理科でいつも塾のテストの点数を競う仲だった。
あなたは私にとって友達だった。
あなたと私とでは全然考え方が似ていないのになぜかいつも息ぴったりだった。
あなたは私にとって憧れだった。
あなたはいつも遠いところを見ているから、
私はその瞳に映りたくてずっと背中を追いかけていた。
塾の帰りは車で迎えが来る。
私の両親はいつも迎えに来るのが遅かった。皆が先に車で帰っていく中、あなただけは自転車だったから、私の両親が迎えに来るまで一緒に残って他愛のない話で盛り上がった。そして、迎えの車が来る気配を感じ取ると「じゃあな」と言って、ぱぁーと走って暗闇に溶け込んでいく。
私はこの時間がずっと続けばいいのに、といつも名残惜しく思っていた。
「スリル」
急遽、A組に転校生がやってくることになりました。
レオです。
よろしくお願いします。
ちょうどミロさんの隣が空いてるから、あの後ろの端の席を使って。
周りの人は助けてあげてくださいね。
隣の席の女子に会釈して座る。
転校生なんて人生で初めてだったから、とても緊張する。
…うまくやれるだろうか。
ねぇ、と声が聞こえて隣を見るといつの間にか僕はクラスメイトに囲まれていた。
どこから来たの?
転校生なんて珍しいよね。
前の学校はどんな感じだったの?
突然な質問攻めに驚いて答えられずに困惑していると、急に隣の女子がパンと大きく手を叩いた。
ひとまず今日の放課後は転校生歓迎会を開催しよーっ!
こういう集まりは苦手だ。
しかし、断るのも僕には難しい。
結局、周囲の「当然、来るよね?」という圧に押し負けて現在はカラオケにいる。
転校する前は友達ができないことを心配していたけど、そんな心配は不要だったみたいでクラスメイト全員仲が良く、むしろ僕の暗さが足手まといになるのでは、と見てて思った。
「転校生くん、次何歌うー?」
カラオケにあまり行ったことがないと言うと連チャンで歌を歌わせてくれたけど、もう喉が限界。
空になったからドリンク取りに行ってくる、と言って部屋の外へ出た。
メロンソーダのボタンを長押ししていると、
「疲れてない?大丈夫?」と声を掛けられた。
青いフレームのメガネが印象的な彼女は少し困ったように笑った。
「エイルだよ。分かんないことや困ってることがあったらいつでも呼んでね」
そう言って彼女はまた部屋へと戻っていった。
ドリンクを持って部屋に戻ろうと歩いていた時、左側から来る人に気づかなくて思い切り衝突し、その反動で思い切り飲み物をぶちまけてしまった。
メロンソーダでベタベタになった彼女は隣の席の、確かミロって名前…
「もうちゃんと前見てよねっ!私だったから良かったけどっ」
「ごめん、気づかなくて。制服、クリーニングに出すよ」
「あー大丈夫。家が近いからすぐ着替えられるよ」
「でも」
大丈夫、大丈夫と言って彼女は先に帰ってしまった。
初日から早々にやらかしてこれから大丈夫だろうか。