よあけ。

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9/13/2024, 8:05:48 PM

︰夜明け前

空を眺めていると少しだけ身軽になれる。

ここのところ同じことを考えている。同じことに囚われているのはもう随分昔からか。

囚われているから同じことを考えているのだ。「そればっかり」って、そりゃあそうだよ。

紫と藍が混ざり合って、地平線あたりは細く青白い。これから空は徐々に色を薄めていく。

ただぼーっと、ゆらゆら薄明を眺める。

復讐心とか、そんなのも、伸びて薄れていくようなもんかな。ヤケクソになって、拗ねて、縮れて固まったこれも薄く伸ばされて。

「あいつのせいじゃん」と呟いてみて、弁解するように「他責はだめよな」とこぼれ落ちる。

まだ暗い空の色に乗せて、なんとなく広がってく心ってやつを想像する。

いつか白む空のように明るくなるだろうか。

「心の中で他責するくらいいいかなぁ」なんて、包み込んでくれる球体に向けて。

「他責はだめよなって思えてる時点で立派じゃないか。他責して全部人のせいだって暴れててもおかしくなかったろ」

口から出た言葉の煙が細く長く広がる雲に変わってく。

「責めてもいーよなぁ。他人のことも、自分のことも」

人を責めてはならない、他者も自己も責めてはならない。そういう決めつけ、痛くて辛かったんだよなぁ。

「他人のこと責めたいなら責めてもいーよ。自分のこと、責めたいなら責めてもいーよ」

誰にもそれは咎められない、当事者以外が口を出せることではない。なら、事象をどう扱うのかは己が決めることだ。

風が優しい。柔らかい風が体をほどいていく。

細い糸になってくみたいだ。

自分が弱かったから、弱いから。強くなりたかった、なれなかった。

責めたいなら自分のこと責めてもいいんだ。いいんだ。誰もこの気持ちを咎めることはできない。そんな権限なかったんだよ。

だってみんなただの他人だしなぁ。

自他境界ゆるゆる人間があれこれ口出ししてきてたんだよ。お前は私じゃないし、私はお前じゃない。こんな当たり前も理解できないほど脳みそ変になってたんだなぁ。

責められたら、責めてたら、ちょっとホッとするんだ。あの人達は悪くなくて、自分が弱かったからだよねって思える。それこそ現実を見ず逃げてしまえた。

私の痛みは私だけの痛みで、あの人達の痛みはあの人達の痛みだ。別物で、交わることがあったとしても同じではない。

「私は貴方じゃないから、アンタのことよく分かんねぇや。アンタも、私のこと」

理解なんてのはなくて、そこにはただ解釈があるだけ。憶測と同情と手探りで相手を理解しようとしているだけの決めつけ、ただの解釈。

誰も悪くなかったってことにしたら楽なんだ。誰のことも咎めなくていいってことは、誰のことも憎まなくていいってことになるはずだと。

ああ、でも、悲しいな。

涙、しょっぱい。

早く太陽が見たいな。

『むずかあし』

――――あ

救われてくれるのかな。大丈夫なのかな。「難しいね、分かんない」って気恥ずかしそうに照れながら笑ってた。君は救われるのかな。

「むずかあし」

……難しいね、考えるって、難しいよね。

悲しいな、でも好きだよ。夜明けだって悲しいど、でも好きだよ。朝は怖いけど、昼は嫌だけど、夜明けが来てほしいと思うよ。

寂しいね。本当は身を寄せ合っていたかったのかな。

どこまでも、どこまでも空は広い。空はどこまでも、いつまでも、綺麗だ。

空に包まれている間はきっと正気でいられる。

夜ほど鬱屈していない、夜ほど孤独を誘う静けさじゃない、夜明け前の静寂は、包み込んで傍にいてくれてる。

きっとちっぽけな人間のことなんて気にしちゃいないんだろうけど。

夜明け前の、これから温かくなる前の冷たさを、まだ好きでいられる。

9/12/2024, 12:30:39 PM

︰本気の恋

いつまでも元気でいてね。いつまでもどこまでも明るく笑っていてね。溌剌としたあなたの事をきっとこの先も思い出す。アイドルという存在に惹かれたことも、ペンライトを握ったことも、色に染められたのも、全部あなたが初めてだったの。

煌めくあなたが大好きだった。あたしの初恋、あたしのはじめて。かわいいかわいいビビッドピンク。弾けるような笑顔だけれど、長い黒髪が大人っぽくて、ああでも喋り方は無邪気で愛らしい。リアルタイムで成長を追えることがあんなにワクワクすることだったなんて、あたし本当にあなたに出会えていろんなことを知っちゃった。

あたしはあなたのただのファン。あなたに光を貰った一人。あたしあの夏夜、あなたの輝きに魅せられちゃった。ぬるい空気から逃げ出して、冷房の効いた部屋で一人、画面の中でチカチカ光るあなたを見たの。なんてまばゆいびびっどぴんく! 普段何気なく見てスルーしてた、今まで気にも留めてなかった。たったあのときあのウィンクで、まんまとキラキラ瞬いちゃった。

かわいい、かわいい……かわいい!

あなたの歌を何度も聴いた。映像だって何度だって見返した。あなたの声もまなこも振る舞いも、何もかもが素敵に見えた。かわいいかわいいビビッドピンク、もう一度笑ってウィンク飛ばして! 輝くピンクのペンライト、握りしめたこと忘れない!

9/11/2024, 8:30:39 PM

︰カレンダー

自罰してたら取り敢えず怒られない
「僕が悪かった」
思ってないこと呟いて責めを避ける

いやいやほんと困っちゃうよね
「クズ野郎だから」
言ってるうちに本当のクズになっていく

卑下して皮肉ってれば楽々飄々
プライドが高笑いしてんだ
「僕は出来損ないなので僕がそんなことできるわけないでしょう!よって僕は無実!!」

クソボケバカカスゴミって暴言吐いてりゃスッキリすんだって
そんなんで生きてて楽しーの?
うるせえ

災いを呼ぶ口。 どーしようもないね

「恵まれてるやつはいーよな」
「別に恨んじゃいないさ」
「これでも好きなんだぜ」
「慰めなんて勘弁してくれよ!」
「おいおいお前ら僕より優秀なんだろ!なのに分からねーとかダッセェな!」

嫌味な態度劣等感より。 どーしようもないね

日めくりカレンダー毎日破り捨て
道踏み外し階段踏み外し
日は進むし日は昇るけど僕は真っ逆さまに転がり落ちる

『本当は自分のせいじゃない』
『本当はあいつらのせいなのに』

卑下と自虐と自罰のフリしてるだけ
本心引き裂いて覗けばホラ真っ“白”
さっさとばれてら

どーしようもないね!

どーもしてない。

9/6/2024, 9:16:54 PM

︰時を告げる

意味とか理由とか探して、それ、見つかったら幸せになれる? 人生の意味とか、自分の価値とか、そういうのあったら生きやすくなれる? やる気出てくる? 本当にそれさえ見つかれば生きていけるの? 無い物ねだりばっかりよね。中途半端考えられる人の脳を持ってるから、中途半端辛いのね。そんなの見つけたところで臭いものに蓋してるだけなの。ずぅっと苦しいまま。

どうして生きているのかなんて二の次なのよ。そんなことを考えているのは生きていて苦しいから。ならその根源を探して潰せばいい。生きる意味があったって辛いものは辛いのだから、重要なのは生きる意味じゃなくて、ストレスを取り除くことやストレスに対処するってことなの。

ああ、そう、正しい対処法なんて、そんなの誰も教えてくれないわ。

ムカムカするの。人を見るとどうにもこうにもソワソワして、イライラしだして、とりあえず何か引っ掻いてないと落ち着かない。ギャハハって下品な笑い声も、パチンパチンシンバル持ったお猿さんのぬいぐるみみたいに手を叩いてるのも、恨み辛み愚痴ってるのも、理解できないからって攻撃してるのも、全部うるさいの。

人間邪魔だし、そこの一部である自分も嫌。イライラムカムカガリガリ。そんなことしてたら皮膚がボロボロになっちゃって痛いから、脳内で人を刺すイメージをするの。思う存分刺して刺して刺して刺してあー! スッキリ!

何度も刺したらね、そしたら人間だった何かになるの。脂肪も筋肉も内臓も混ざりあった細切れの肉と骨だけになる。人間もね、ただの肉の塊なのよ。ただの肉の塊と骨を高温で焼き尽くしてしまえば何も残らない。中身なんて無くなる。

「あ、人間もただのお肉なんだ」。なぜだかとっても心が洗われたような気がしたの。ただのお肉なら、そんなに気にしなくていいやって思ったの。

ただのお肉なんだ、ただの肉、ただの人の肉! どうでもいいや!

ただの肉ならどうでもよくなれたの。他人も、自分も。

だからね、人肉さん、好きなようにすればいいと思うの。

お前はどうせ排便するのに美味しい食べ物がいいって料理して食べてるものね。栄養にはなるよ。でも料理そのものはなくなっちゃう。それとおんなじだと思う。どうせなくなっちゃうの。

偉業でも成し遂げない限り後世の人に認識されることはないし、一人でぽっくり死んでしまったら誰からも忘れられる。どうせ何も残らないの。

だからね、人肉さん、好きに笑って、好きに怒って、好きにほざいて生きていればいいと思うの。み〜んな肉の塊よ。ただの肉塊。精肉店で販売すらしてもらえない肉の塊。人間って食べたらどんな味がすると思う? 食べる部分があんまり多くないから、齧り付くのが難しかったり。人間も鶏肉と同じように骨とくっついてる部分が一番美味し? あんまり美味しくない。でもとびきり美味しいから精肉店に並ばせてもらえないってことにしちゃおう。SSRのお肉! 共食いしたら病気になるから食べちゃ駄目ってだけだと思うけど。

「ただの人肉がなんかほざいてる」

人がただの肉塊に思えたとき、とても息がしやすくなった。どうでもいい存在、喚いてようと笑ってようと、お肉がなんか喋ってるって思ったらちょっとファンシーだった。スーパーに並ぶ肉が何か言ったとしても気にも留めないだろうし。だってただの肉だもの。

スーパーに並ぶ肉を見てひとつひとつその動物たちに思いを馳せたりする? ひとつ、ひとつ、その動物はどんな生き方をして、どんなふうに感じて、どんなふうな思いを抱いてここに並んでるんだろう、って。やる人に「人を肉だと思え」なんて強いるのは無茶な話かな。

肉に対して食べ物としか認識していないの。特に何も感じず肉のパックを手にとって「どれが安いか」「どれが美味しそうか」を気にするだけ。だからかな、人のことをあっさり「ただの肉だ」と思えたの。同じだと思った。人間もただの肉とおんなじよ。ならここにパックされてるお肉たち同様、いちいち気にしなくていいやって思った。ただの肉が動いて喋って生きてるだけならあんまり怖くなかった。

いっそ可愛いと思えた。一生懸命お肉が何か叫んでるんだって、お肉、一生懸命生きてるんだって。有難いことね、ちゃんと「いただきます」って言うように、ちゃんと挨拶しないとね。

倫理観なんて人によって変わるものなのに、それをベースに話そうとするなんて「変なの」って思わない? 曖昧に存在してる「倫理観」「倫理的に」ってやつで話が進んでく。きっちり倫理観の磨り合わせってやつをしたらね、揉め事が起きちゃうんだって。本当かな。

人もお肉。だから怖くない。己も肉の塊。だからなんだっていいんだ。

どうせ肉の塊なんだ。憎たらしいあの人も、消えてほしいあの人も、みんなただの肉。大事に思っているあの人も、仲良くしてるあの人も、みんなただの肉。己もただの肉。人って呼ばれてるだけの肉の塊。

ねえ人肉さん、少し息がしやすくなったって思わない? 人間でいると疲れちゃうものね。たまにはただの肉の塊になればいいのよ。ただの人肉。燃やしたらなんにも残らない。

人肉さん、人間みんな肉の塊なんだから、どんなこと思おうと、どんなこと言われようと、どんな行いをしようと、なんでもいいのよ。肉の塊が服着て歩いてるだけなんだから。人肉がなんかほざいてるだけなんだから。途端に全部、どうでもよくなれる。焼いてこんがり美味しい肉にはならないけど、今日もお肉、げんきそうだなあ。

ただの肉の塊がたまたま電気信号で動いてるだけで、全部己の脳が下した判断に従っているだけ。

ねえ人肉さん、貴方も燃やせばなくなるんだから、気楽に生きていいのよ。ただの肉が、何か口にしたところで、どうでもいいもの。人肉さん、なんでもいいの。なんでもいいなら、気楽でしょ。気楽に生きてね、人肉さん。

9/4/2024, 12:38:45 AM

︰些細なことでも

拝啓 

残暑が和らぎ秋の気配が感じられる頃となりました。先生におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。

語彙力をつけねば、もっと語彙を知らねば、もっと、もっと、と、日々メモを取るばかりです。文章を読んでいる中で気に入った表現があれば書き留めています。全くもって身についてはおりません。眺めてはときめいてメモを閉じる。咀嚼してしまうのが勿体無いような気がしているのです。

幼少の頃、畳に布団を敷いて寝ておりました。障子の向こうから聞こえる鈴虫とコオロギの鳴き声に耳を澄ませ、秋夜の軽くやや冷たい空気を吸い込みながら眠りにつくのが癖でした。あの家で過ごした記憶の中で、ただ唯一清らかな思い出で、特別です。恐怖も、違和感も、不安も一切ないただ純粋な記憶なのです。心安らげる唯一の。

この季節になるとふわりと記憶が蘇ってきます。鈴虫とコオロギの鳴き声を聞きながら、その記憶を見ているときだけ、生きている中で唯一、安らぐことができる。

書いてしまうのが勿体無いと思うくらいにはその記憶が好きです。何でも言語化したくなる質ですが、言語化し言葉の枠に嵌め込んで消費してしまう残念さを確かに感じています。

言葉の枠に嵌め込んで、あたりを漂っていた記憶を後付によって形作り、それがあたかも事実かのように錯覚している。当時の私が何をどう感じていたかなんて今の私にも分かりません。しかしそれで良いのだと思います。ただ事象があるだけで、それをどう解釈するかはその時々ですから。

この時期になると毎年語彙を磨きたいと強く思うようになっていました。秋の匂いと秋の空気をどうにか言葉にしたくて辞書を引きます。正しい言葉を探そうとして、しかし結局中断してしまうのです。「秋の匂いなんてどうせ金木犀だろう」。遠い昔に言われたことを何度か再生しては手を止めてしまいます。あの人はつまらなさそうな顔で言っていました。些細な一言を秋になるたび気にしています。

辞書を引くのは好きです。知らない言葉を聞いて検索するのも好きですし、使ってみることも好きです。知らない言葉を知れたら嬉しいです。昔からある表現を美しいと感じることも楽しい。精神的な未熟さを言葉で補って蓋して隠して大人のふりをするのは立派になれたような気がして嬉しかった。だから語彙力を伸ばすことが嫌なわけではなかったんです。季節の言葉だけが駄目だったんです。

「秋の匂いなんてどうせ金木犀だろう」と言われたとき、思っていたより傷ついていました。ならばこの匂いは、金木犀も咲いていない9月のこの匂いはなんだと言うのか、と詰め寄りたくなっていました。高く色薄くなってゆく秋空にも、湿気の少ないスッキリとした、しかし柔らかい秋朝にも、光を薄めた秋の陽光にも、私にはどれも匂いがあると感じているのに。のに、言葉にできなかった。私は「どうせ金木犀だろう」と言われ黙りこくることしかできなかったのです。

正しい言葉を探そうとして「『どうせ』なのかな」と頭を過ります。あの人のつまらなさそうな顔を思い出しては「秋の匂いなんてつまらないことなのかな」とじんわり心を蝕みます。「美しい日本語を知って何になるのか、どうせ物覚えが悪いのに、どうせ学んだところで活かせない、どうせこんなの役に立たない」と。

先生、私は昔「語彙力をつけたい」と思っていました。言葉にさえすれば救われるような気がしていたのです。人に伝えることさえできれば報われると思っていたのです。「言えないよりは言えたほうがいい」と思ってきました。大人が使う言葉を真似て、奇妙な言い回しの意味を理解して、複雑な漢字を使えば、それで言いたいことが口にできると思っていたのです。

でも、本当は、そうじゃないのかなぁ、なんて思います。「ただいい匂いがするから好き」だけでも「秋の匂いが私にはするから」だけでも、別に良いんじゃないかって。

「金木犀じゃなくても秋はいい匂いがするんだ!」

そう言えれば、もう、本当はただそう言いたかっただけなんじゃないか、って。

ずっと話をきいてくれてありがとう。本当は、本当はね、子供みたいに、子供らしく、ただ話して、ただきいてもらいたかっただけで。幼児期の子みたいに「ねえねえきいてきいて!」って、ずっとやりたかっただけだった。私は自分で思っているよりずっと幼くて、子どもで、大人になりたくなかったのに、大人になりたくて大人になろうとして。変なこと言ってるよね、それも分かってるの。私に必要なのはね、苦手な漢字いっぱいの複雑な言葉じゃなくて、ただ好きとか、ただ美味しいとか、ただ楽しいとか、ただ嬉しいとか、ただ悲しいとか、それだけで表現できる言葉だったのね。

先生、こんなこと直接言えないの。口に出したら全部嘘みたいになっちゃって、すぐヘラヘラするか、すぐまともに喋ってしまって、結局自分自身何が言いたいのか分からなくなってしまう。口にすると全部駄目になる。文字だけが私を信じさせてくれる。嘘じゃないって証明してくれる。

秋になるとね、思い出すの。ハナミズキの赤い実を拾い集めたこととか、上着のチャックを閉めてもらったこととか「もう秋になったねえ」って話しかけてもらったこととか。そう、そうなの、たった、些細なこと。こんな些細なことでも、私にとっては大切な記憶。秋の記憶ってね、どれも優しいものばっかりでね、あたし、あたしね、本当はね、ただ大好きなだけだったの。些細なことを大事に思っていたから、だから、ただ、ただあたしは、せんせい、あたし、






秋風が心地よい季節となりました。お体に気をつけて健やかにお過ごしください。

                      敬具

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