:幸せに
人生の終点について考えている。
人生の終点を探している。
あなたの場合は途中下車かもしれないが。
どうぞ、どうか、お幸せに。
:ハッピーエンド
僕が思うハッピーエンドは濃厚なビターチョコレートケーキの味をしているんだ。
ジュッと溶けてトロっと広がる重めの甘さ、チョコケーキ。ちょっとピリっとビターなくらいが美味しいのさ。
だからさ、僕、ぜひ君にも食べてもらいたいんだ。
まあるい机に純白のテーブルクロスを敷いて、輝く金のフォークを用意して、花柄のティーカップに君が好きな紅茶も淹れて、ちゃんと御膳立てするからね。
だから食べてほしい。どうか僕と一緒に。
後味が悪くて、不気味で、胸糞悪い、贅沢な味。
濃厚なビターチョコレートケーキ。
苦くピリつく毒入りだって咀嚼して。飲み込んで。
濃厚なビターチョコレートケーキ。メリーバッドエンドの素敵なお味。僕の求める幸せな終わり。
:見つめられると
ぶっ刺さないと喋ってくれないの。
何度も何度も刺して、その度にズタズタになってまうけど仕方がないわ。腕もお腹も太ももも心臓もズボズボ穴だらけになって、血だまりの上で横たわっているばっかりだけど、死にはしないし消えたりはしないから安心してね。
お話したいときは髪を鷲掴んで引っ張ってあげれば起き上がるから、それで顔を上げさせて。起き上がっても何も言わないならもう一度刺してみてね。それでもだめなら投げといてちょうだい。ベチョベチョ血だまりの上に横たわるだけだから。意外と気持ちいいのよ、生ぬるくて暖かくて。
またお話がしたくなったらいつでも来てね。
申し訳なさそうな顔も、苛立ってる顔も、困った顔も、微笑む顔も、見慣れているから気にしないで。だけど包丁は忘れず持ってきてちょうだい。刺さないと喋れないから。滅多刺しにしてくれたって構わない。
痛めつけたいわけじゃないのよ。私はね。でも、みんながみんなそうじゃないから。踏んづけて蹴り飛ばしてボコボコに殴ってスッキリしたい子もいれば、詰ったりお説教する子もいるし、ただ眺めて無視して帰っていく子もいる。
待ってるから。また来てね。
どれだけ包丁を用意しても、どれだけ血を掃除しても、どれだけ待っていても、一向に喋る意思を見せない。声を掛けてみても、そばに座ってみても、抱きしめてみても何も言わない。無表情、無気力、クタクタの屍。時折半分開いた目で見つめられるけど、何かを求められているような、そうでもないような、意図は読めない。
仰向けに寝転んでぼーっと暗闇を見つめているときだけ、ほんの少し幸せそうに見える。
でもごめんなさいね、お客さんが来たから包丁で刺されてもらわないと。何も語らないあなたのために代わりを努めてくれる大事な人たちだから。
だからごめんね、そんなに怯えないで、怖がらないで、逃げようとしないで、余計ズタズタにしたくなるじゃないか。
大嫌いなんだ。喋らねぇし無視を決め込むし逃げてばっかのくせにすーぐ被害者する。だからボコボコにしたい。役立たずはゴミ。ズタズタになって弱ってさっさといなくなればいい。なのに、なのになのになのに!なんでこんなみすぼらしくてきったねぇこいつなんかを大事にすんだよクソが!さっさとくたばればいいのに。
こうやって自尊心を削っておくことで私は私でいられる。酷な話ね。でも仕方がない。こうやって均衡を保っておけば人の中で生きていける。まともでいられる。おかしなことを人前で言うことなく普通の人としていきていられる。我慢できる。自我を保っていられる。私が私として生きるためには犠牲になってもらわないと。変な子って思われないように、除け者にされないように、傷つかないように生きるためには先に刺しておくのが一番なんだ。
これは最低限の必要犠牲だ。致し方ない。
そう言って皆、刺しに来る。「ごめんね」「ごめんなさい」「ごめん」「ごめんよ」と言いながら、ぐっさり包丁を肉に食い込ませてくるのだ。でも、それも仕方のないことなんだろうなって。痛いけど、誰も話を聞いてくれないし、それなら、暗闇でべっとり横たわってるほうが、いいんじゃないかなって。少なくとも、嫌ではないから。それに皆、代わりに生きてくれてる。ならほっとけばいい。ただひたすらに蹲っていたい。それが叶うなら「本当の自分の気持ち」なんて必要ない。それに嘘の言葉で喜んでくれているなら本音なんてない方がいい。本音ってのは全てにおいて消費量が激しい。なら嘘で固めた姿のほうが身軽でいいのさ。
賢く生きなきゃ。ダメージは少ないほうがいい。
生きるためには「本当の自分」なんて邪魔でしかない。本音本心ありのままを受け入れてほしいなんてね、それを望めるのはごく一部の人だけさ。お前は特に駄目だ、望める側じゃない。だから諦めてるんだろう。実に良い選択だ!ありのままの自分でいたら他人から嫌われることをきちんと理解している。ありのままを受け入れてもらおうとするからカモられて搾取されるんだよ。
もう二度と愚か者になりたくない。
可愛い可愛い可哀想な子。ぶっ刺さないと喋れないけど、他の子が話してくれるから、もうそれでいいって、それすらどうでもよくて興味がなくなってるのね。代弁者はやっぱり必要?ありのままの貴方だって十分素敵よ。さあ、手を取って、踏み出して。胡散臭い?それは困ったなぁ、どうしたらいいかな。
しばらくはやっぱり無理みたい。また引き篭もっちゃった。お話したいとき、また今度来てちょうだいね。包丁を使い切っちゃったみたいだからまた用意しておくわ。じゃあ、またね。
待ってるから。
良ければまた、刺していってね。
:My Heart
私の心が欲しいなら、私の心臓、
ホルマリン漬けにしてちょうだい。
そうしたら、死んでもずっと、残ってるから。
愛しているわ、My Heart.
溶けそうなほど愛おしい。
でも溶けちゃうなんてもったいない。
あなたのことも、ホルマリン漬け、いいかしら。
あなたの心、脳みそが、欲しいわね。
:ないものねだり
胸糞悪いことばかりつらつら書き連ねる。誰かを傷つけられたらそれでいい。傷ついてほしいのだ。優しいあなたには理解できまい。この感覚が、この感情が。いつだって誰かを刺せる機会を伺っている。
記憶から取り出したものは結局すべて形骸で、あるとするなら残滓だけで。その残滓を掻き集めたとして、それも何にもならない。そんなもの集めたって中身なんて疾うの昔に抜け落ちている。
温もりだとか優しさだとかはただの総称に過ぎなかった。酷い感傷だなぁ。けどこんなもの幇助にも成り得ない。役に立たない。ただ憂鬱とさせる成分だけ。アイデンティティ?個性?だとするとあまりにも虚しすぎる。
記憶の欠如がある限り真実なんて分からないし、ましてや目に見えない証拠も記録も残らない個人の感情なんて尚更。そもそも他人が知る術もないんだし、知ろうとするほうがおかしいのかもしれない。
断片的な記憶ばかり。
確かに片鱗はそこかしこに散らばっている。しかしどれも違う。そんな単純じゃない。一言で済ませられる程度だったらどれだけ良かったことか。良くはないか。あぁ、不毛だ。
遣る瀬無いとか後悔とかそんな正義じみていない。無駄なことを延々と再生するだけ。あまりにも幼かった。今の私はただ哀れな感傷で成り立っている。
そう思い込みたい。実に自虐的な精神不良だ。根本的解決とやらがない限り私に変化なんて無意味なんだろう。変に期待したり何かに縋ろうとするほうが却って良くない。
言葉なんてどれも役に立たない。
おはようこんにちはおやすみも言えないのは随分寂しい人だと思う。社会のマナーだとかそんなことどうでもいいんだよ。そこに心がないなら全部クズでいい。でもそれじゃあまりにも、欠けてる?
優しい挨拶がしたかったかもしれない。今じゃ鬱陶しい以外の何物でもない。
もし私が健康になったらそれはもはや私ではない気がしている。病んでいるのがアイデンティティとなり個性となっている虚しい現状だが、それでも手放さずに手元においているのはそれらが私を象徴するものだと心から思っているからだ。
歪な自己愛だ。私は私が好きだから己の体に噛みつき、傷をつけ、殴り、首を絞め、限界まで腹を空かせ気持ち悪くなっているし、泣いて、物を壊して、暴れ、惨めで可愛いねと自分を可愛がる。
全くもって可愛くない。
と、一応否定してみたりしつつ。
大丈夫、直に効いてくる。
お前が心底羨ましい。お前も私が心底羨ましい。だからイラつくし噛みつきたくなるし皮肉を言いたくなるし傷つけたくなるし暴言が出てくる。なあ、お前。そんなお前が滑稽で大好きだ。とことん嫌いになってくれ。いつかお前が望んだように私と同じになって首を吊って成功する日を心底楽しみにしている。
可哀想な人間になりたい。誰もが認める可哀想で哀れな奴に。「悲劇のヒロインぶってる」ではなくそれこそ本物の悲劇のヒロインになりたい。悲劇のヒーローでもいい。……いや、誰の役にも立てなかったのにヒーローは烏滸がましいか。
他人の所為にしたいだけ。皆他人事だ。自責することが趣味なのも自責しておくことで周りから責められるのを先に防いでいるだけ。ついでに自責すると共に遠回しに誰かをぶっ刺したいだけだ。
あまり己をマイノリティだと思い込みすぎないほうがいい。探せばそういうやつは他にゴロゴロいる。 そうか お前 知らないんだな。
続ける意味が分からなくなった。ずっと分かっていなかったが何となくでも続けていれば見えてくると期待していた。でも、それももう必要ないのかもしれない。だって解決しない、解消する気も失せている。結局私のこれは治らないなら何のために続けるというのだ。
「人の気持ちが読めて苦しい」のではなく「勝手に相手の気持ちを決めつけて分かった気になって苦しんでいただけ」ということに気付いた。
「なぜ怒っているか分かる?」という質問に答えられなくて毎度頭を抱えていた。昔から人の考えていることなんて理解できていなかったのだ。
かつてのあの人と同じように依存症になりたい。それでようやく報われる気がするのだ。記憶を私自身で再現することで、そしてあの人とそっくりになった私を救うことで過去のあなたを解消したい。憎いほど愛を求めていたあなたに成り代わって自ら首を絞められたら、あなたを殺せる気がしている。そう、ずっと殺してしまいたかった。泣き声がうるさかったから。
結局形骸でしかないのに。 それでもいい。中身がなくたって無意味だってそれでいい。依存症になりたい。懺悔なのだ。あなたと同じ道を歩むことで私は私の悔いを昇華したい。 十分正義じみているじゃないか。 矛盾しているのがデフォルトなんだよ。
加害者になりたい。もう既に加害者だが、もっと。恐怖で支配したい。恐怖で支配されるくらいなら、他人に支配されるくらいなら先に己が己を支配しておきたい。私は私の加害者として生きていきたい。そして他人も加害して生きていきたい。己が被害者になるくらいならいっそ加害者になりたい。
他人の気持ちを決めつけるよりいっそのことバッサリ徹底的に無視するほうが優しいだろ。私自身に。
私が傷つかなければ他人なんてどうでもいい。勝手に傷ついていればいい、泣いていればいい。それが嬉しい。それは私がやっと支配から逃れられた証拠となる!
自分自身を表に出さないように努めるだけで他人は褒めてくれる。他人が傷つこうとどうでもいいと思っているような私がまるで「良い人」みたいに。
そして私は「私もあなたのようになりたいよ」と笑うのだ。