お題:海へ
海へ行きたいのです。ベッドから引っ張り起こし、引きずって、連れて行ってください。身綺麗にしなくていいですから、部屋着のままでいいですから、体をどこにぶつけてもいいですから、足でも何でも抉れていいですから、どうか連れて行ってください。ひと目、海を見てみたいのです。風呂も入れず、食事も摂れず、排泄のため起き上がることも困難な、寝たきりの、中途半端、死ぬことすらままならない。わがままを言わせてください。身綺麗にしなくていいですから、食事も必要ありません、あなたの手を一度貸していただけませんか。そのまま海へ放ってもらって構いません。海へ行きたいのです。
お題:鳥のように
与えられて成長してスケートしてはいずり回ってお口開けて餌を待ってる。与えて与えてそいつが生きるかも分からないのに。呆気なく死ぬわりに。母数は必要、多ければ多いほうがいい。だって生存率が上がるから?その分あるだけ殺せる。毒とも知らず丸呑みしてる。鳥ほど賢くないけどお口開けて飲み込んでる。鳩は何味?鳥は美味しい?車に引かれてぺしゃんこになってたあれは見てみぬふりして家に帰った。お空を飛んでみたいな。羽を持っていても無残な死に方をする。命の重みは体積で決まりますか?足動かして水面で滑る、楽しそう。鳴き声がうるさい。ホーホケキョ、桜と共に。情緒、風情がありますね。好きなの?嫌いなの?殺したいくらい好きって言葉があるじゃないか。なんでもいいけど美化はできるよ。お掃除ですか、かたしといて。陸で生きられないのに空で生きられると思ってるのか。お空を飛んでみたいなあ。馬鹿馬鹿しい。翼が欲しい、鳥のように飛んでみたい。きっと楽しい。飛ぶだけなら怖くないよね。
お題:空模様
夏の星、夏の月、素月。催涙雨にならなければいいが。これほど極暑が続けば9月が来るなんて到底思えない。過去の8月末は七夕にぴったりだった。日中の暑さがゆるんだ夜はとびきり最高で。その前に夕立が降れば、雨の匂いと相まって夜はとびきり……なんだったか。餅が美味かったのは中秋の名月。カナカナ、鳴いていたのは、あれは、やめよう。感性が死んでる。写真を見ても何も思えない。幸せか。大丈夫。今は頭痛のせいで苦いだけだ。虹の端を見に行きたいといった、雲を食べてみたいといった、夢に溢れていた。綿あめのことをしばらく雲だと思って食べていたのだ。光芒をカメラで撮りたかったのはなぜだったか。空を眺めていた。空がドーム状に見えた。浅い知識と照らし合わせ。地球が球体だからそう見えるんだ、とはしゃいで。外の空気が美味しい。空は飽きないこんなにも。星を黄色のクレヨンで描いていたのはなぜか。こんなにも青く赤いのに。星が揺らいでいるから流星と見紛う。満たされる感覚がする。雲が泳いでいる。それ、再生できない。空模様だったな。空模様。ずっと部屋で寝ているよ。比喩表現は嫌いじゃない。むしろ主食さ。なのに、今は腹が膨れない。空の話だった。空を見ているとからっぽになれるから空っぽと書くのだろう。地上ほど物で溢れていない、ほとんど何もない。あるのは空気と、遥か上空、飛行物体があるくらいで、空はどこまでも広大だ。この地球を庇っている。だから、そう、空っぽの話だった。違う間違えた。空模様の話だった。空の模様とは何を指しているのだろう。雲か色か天候か。ひつじ雲だ、と喜んだときは確かに空に模様があると思った。教科書も高積雲なんて難しい字を使わずひつじ雲って書けばいいのにと思った。とりとめのない。空模様さ。比喩表現は嫌いじゃない、むしろ。ご飯食べなきゃ。文字の圧で胃もたれが起こる。
お題:夜の海
ワンルーム、夜の海。
青い光が壁や家具で揺らいでいて、海の中かと錯覚した。目を擦って顔を上げるとテレビの画面が光っているのが分かる。テレビの前には人影。カチャカチャと聞き慣れたコントローラーの音。どうやら真っ暗な部屋でゲームをしているようだ。
「あ、起こした。ごめん」
「……や、いいけど」
のそのそ布団から出て隣に腰を下ろす。向こう側にある時計を確認すると2時50分を示している。どんな表情をしているのか気になり顔を盗み見た。目の下の隈が濃い。
「隈ヒドいなぁ」
「え〜やだぁ」
ペタペタと目の下を触りながらはにかんだ。
「どれくらいやってる?」
「2時間弱くらい?」
「ちょっと休んだら」
「うん。そうするわ」
コントローラーを机においてすぐそこのキッチンへとぺたぺた歩いて行った。
画面の光だけがこのワンルームを照らしているなんて、不思議な気持ちになる。自分だけではこんな経験することもなかっただろう。
「水どうぞ」
言いながらもう片方の手に持ったコップに口をつけており、立ったまま飲んでいた。気ままなもんだと思いつつ、ありがたくコップを受け取る。
「ぷはーー沁みるね〜」
「オヤジみたい」
「美味しいから飲んでみてよ」
促されるままに水で喉を潤す。するすると流れていくのは深夜だからか、非常に美味しく感じられる。
「どう?」
「美味しい」
でしょ〜と満足げに笑う。
「なんかさぁ、誰かがいる中、夜中にゲームしたら、それで、それが、非日常に変わったらいいなぁって思って」
また、はにかむ。寂しさからくる行動だろう。少し分かる気がする。
「画面見続けてたら疲れるよ。仰向けで寝てみ」
「仰向け?」
光り続けるテレビの前で寝転ぶ。こうしていると芝生の上で空を眺めているみたいだ。尤も、あるのはただの天井だが。
コントローラーを適当に触って画面を動かす。
「テレビの光が壁とかに映って波っぽくない? 海みたいで非日常感あるでしょ」
「すげ〜、なかなか楽しい」
「でしょ?」
「ヒーリングミュージックとか流したらそれっぽくなるかな」
「うわ、ぽいぽい。ぽい……?」
「あは、わかんね〜」
余計なことは考えず、クスクスと。ワンルーム、夜の海にて。
お題:自転車に乗って
オルゴールを壊しました。青い箱の中に仕舞い込みました。棚の中に押し込みました。捨てられないもので溢れてそろそろ扉が閉まりません。捨て方を知らないのです。貰った物で溢れています。棚の中だけ。
棚以外殺風景ね。そう思います、自分でも。
整理したら?そう思います、もちろん。
チョコレートが変形しました。青い箱の中に仕舞い込みました。棚の中に入らないので上に置きました。よく分からない物で溢れた一面青い箱の棚です。片付け方が分からないのです。多分大切なもので溢れています。棚周辺。
捨てなよ。同意できません、あなたでも。
汚いよ。同意します、もちろん。
勿体無いよ。大切にしたいだけ。
自転車をもらいました。箱の中に入りません。棚の中にも上にも置けません。外に置いておきました。目に付くたびに気になります。お手入れをしようにも道具がありません。
自転車に乗って探しに行こう。
カチカチカチ。
体一面に浴びる風。
カチカチカチ。
自転車を漕いで少し遠くへ。
チカチカチカ。
太陽が眩しい。
自転車に乗るたび一つ青い箱を持ち出して。カゴの中に一つだけ入れまして。少しずつ整理整頓。自転車に乗って。