よあけ。

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お題:夜の海

ワンルーム、夜の海。

 青い光が壁や家具で揺らいでいて、海の中かと錯覚した。目を擦って顔を上げるとテレビの画面が光っているのが分かる。テレビの前には人影。カチャカチャと聞き慣れたコントローラーの音。どうやら真っ暗な部屋でゲームをしているようだ。
「あ、起こした。ごめん」
「……や、いいけど」
 のそのそ布団から出て隣に腰を下ろす。向こう側にある時計を確認すると2時50分を示している。どんな表情をしているのか気になり顔を盗み見た。目の下の隈が濃い。
「隈ヒドいなぁ」
「え〜やだぁ」
 ペタペタと目の下を触りながらはにかんだ。
「どれくらいやってる?」
「2時間弱くらい?」
「ちょっと休んだら」
「うん。そうするわ」
 コントローラーを机においてすぐそこのキッチンへとぺたぺた歩いて行った。
 画面の光だけがこのワンルームを照らしているなんて、不思議な気持ちになる。自分だけではこんな経験することもなかっただろう。
「水どうぞ」
 言いながらもう片方の手に持ったコップに口をつけており、立ったまま飲んでいた。気ままなもんだと思いつつ、ありがたくコップを受け取る。
「ぷはーー沁みるね〜」
「オヤジみたい」
「美味しいから飲んでみてよ」
 促されるままに水で喉を潤す。するすると流れていくのは深夜だからか、非常に美味しく感じられる。
「どう?」
「美味しい」
 でしょ〜と満足げに笑う。
「なんかさぁ、誰かがいる中、夜中にゲームしたら、それで、それが、非日常に変わったらいいなぁって思って」
 また、はにかむ。寂しさからくる行動だろう。少し分かる気がする。
「画面見続けてたら疲れるよ。仰向けで寝てみ」
「仰向け?」
 光り続けるテレビの前で寝転ぶ。こうしていると芝生の上で空を眺めているみたいだ。尤も、あるのはただの天井だが。
 コントローラーを適当に触って画面を動かす。
「テレビの光が壁とかに映って波っぽくない? 海みたいで非日常感あるでしょ」
「すげ〜、なかなか楽しい」
「でしょ?」
「ヒーリングミュージックとか流したらそれっぽくなるかな」
「うわ、ぽいぽい。ぽい……?」
「あは、わかんね〜」
 余計なことは考えず、クスクスと。ワンルーム、夜の海にて。

8/15/2023, 7:13:04 PM